どこか変

  橋下徹大阪市長について、私は地方分権(大阪都構想)と政治主導の実現の観点から、昨年の大阪府知事と大阪市長のダブル選挙では支持しましたし、好意的に取り上げてきました。しかし、選挙で勝利して以降、やっていることを見ると、雲行きが怪しくなってきたかな、というよりはこのまま暴走させては危険だというのが印象です。
  平松邦夫前大阪市長が選挙での敗戦の弁で、橋下市長の弁舌について「魔法の言葉だ」となすすべなく、すっかり落胆し切った様子で語ったように、小泉純一郎元首相をほうふつとさせる、強引に押し切る言動が目立つようになってきました。
  それが大阪府政を大阪市政を地方自治を日本の政治を良くするような方向ならばいいと思うのですが、公務員労働組合つぶしや、職員の思想調査といった、些末なことばかりを取り上げ、おかしな方向に進んで行っているなというのが率直な印象です。
  最悪なのが、次期衆院選を意識して、大阪維新の会が掲げた「維新八策」です。徐々に背後で橋下氏を操っているか、もしくは、乗っかって、自分たちの利益を推進しようとする人たちがあぶり出されつつありますね。消費税増税、環太平洋連携協定(TPP)参加については、与党の推進派とはニュアンスが違う者の、推進という点では一致していて、結局は、米国やその手先である財務省の思惑通りですね。
  さらには、ベーシックインカム(最低生活保障=すべての国民に月何万円かの月収を保障すること)を導入することも掲げています。これは要するに、より進んだ社会主義へと向かうことであり、言い換えれば国が国民への支配、介入を深めるということです。
  仕事もしないでプラプラしているような人たちにとっては、素晴らしい制度なんでしょうけれどもね。現在でも一生懸命働いても生活保護水準以下の収入しか得られない人が少なからずいますが、自分の力で生活を切り開こうという意欲は著しく低下するでしょうね。確実に。
  それでなくとも、社会全体が目的意識を失い、どんよりとした沈滞ムードが漂っているのです。「まじめに働くより、最低保障賃金で暮らしていけるや」みたいな人は結構いると思います。さらに人心は荒廃するだろうし、地域の活力や国際競争力も低下するでしょう。きれいごとだけでは成り立たないと思います。
  ベーシックインカムは年金や生活保護などの整合性をとるのが目的とのことですが、筋が悪いし、タチも悪いですね。橋下という人は、そんなに西成が好きならば、現場に飛び込んでみたらどうでしょうか? 一定のお金をばらまけばセーフティーネットや福祉が実現できると単純に思っているのならば、彼が大嫌いな役人と同じ机上での安易な発想にほかならないのではないでしょうか? 経営者としての発想がまったく感じられません。社会経験が少ない人だからリアリティーがないんでしょうね。
  これだったら、名古屋市の河村たかし市長の「減税」政策を全面的に支持しますよ。基本的に行政が民間のことに必要以上に介入するとろくなことがありません。地域のことは地域で、民間でできることは民間でやるのが本来のあるべき姿です。市民から税金を徴収して、不必要に介入するというのはみかじめ料を要求して、もめごとを解決するヤクザとまったく同じじゃないですか。
  税金を徴収するために人を雇ったり、コンピューターシステムやオフィスを構える必要があり、コストだってそれなりにかかるわけです。だったら、民間から余計なカネを吸い上げずに、民間でお金が回るようにした方がいいのではないでしょうかね。
  単に生き方とかその人のポリシーの問題だと思うのですが、生まれてから死ぬまで行政が敷いた(強いた)レールの上を走らされるというのは、どうなのでしょうかね。私は嫌です。それだったら、まだ、格差社会にしてくれた方がいいです。
  橋下市長が府知事になった当時、「地方にフリーハンドを与えてくれたら、いくらでも経済を活性してみせる」と豪語していましたが、労働組合と喧嘩するよりも、そちらを優先すべきではないかと思います。いかに経済を活性化させ、地域の所得を底上げできるかというのが本来の政治の仕事であるはずです。
  パナソニック、シャープが傾き、大阪でのテレビ生産を縮小する方向で動いています。経済を活性化できるとたんかを切ったのなら、ぜひ、大阪の経済を建て直してほしいですね。行政改革なんて優先度としてはその次でいいではありませんか。大阪府知事時代も達成できなかった目標なので、ぜひできるところを見せてもらいたい者です。
  政治家ができることなんて限られています。だから多くを望むことはできないのですが、その中で橋下市長に期待するのは、地方分権と、真の意味での(独り善がりでない形の)政治主導、この2点です。どうかよろしくお願いします。