ガス抜き

  「よっ!ダメ人間。お前ら、相変らずバカか?」。寅さんが生きていたらそう言っていたかどうかは分かりませんが、ニューヨークのウォール街から始まった、反格差、貧困デモは世界中に広がり、日本でも昨日、新宿や日比谷公園で、訳の分からない集会と行進が行われていました。反原発の人たちも、もぐり込んでいて、日本は際立って特異な状況でした。
  ゆとり教育の影響なんでしょうかね? 日本だけでなく海外でも。もちろん、中にはいろいろと考え抜いて抗議行動に参加した人もいるとは思いますが、「金持ち=悪」という単純な構図をつくり上げて、怒りをぶちまけていましたけど、そんなことやってどうなるの?
  かつて、学生運動をやっていた人たちも、たいがい馬鹿でしたが、人間は過去からは何も学ばないのですね。彼らはマルクスを信奉していました(するふりをしていました)が、世の中の何が間違っているのか、何がおかしいのか、論理的な筋道がまったく示されていません。
  貧困から這い上がれる人、あるいは金持ちになる資格のある人は、デモなんかやっている暇があれば、どうやったら困難な状況から抜け出すか、勉強して、努力して、働いていると思います。自分たちの無能さを棚に上げて虫のいいことだけを並べ立てて、どうしようというのでしょうか? そんなくだらない人間のいうことを誰が真剣に聞切れるのでしょうか?
  学生運動と適当に距離を置いていた人たちは、良い就職先をさっさと見つけ、過去とはきれいさっぱり決別し、今頃は、重役とか経営者になっています。世の中、そんなもんです。だから適当なガス抜きにはなるでしょうが、世の中を本気で変えるような力にはなりえないでしょうね。何より迫力がありません。
  確かに今の世界経済はおかしいんですよ。でも何がおかしいのかきちんと筋道立てて説明し、多くの人に納得してもらい、たとえば選挙で代表を送り込んだり、株主総会で議決権を行使するようにしないと何もいみがありません。
  リーマン・ショックで、経営破綻の危機に瀕し、公的資金で生き延びた金融機関の経営者や役員、社員が高給をもらっているという状況は、本来、破産して、株主代表訴訟を起こされたり、失業者として職探しをしなければならないわけで、どう考えてもおかしい。それは、しっかり追及するべきでしょう。ウォール街のデモを報道などを通じてみる限り、確かにそういう点をアピールしていますが、甘いですね。具体的に「戦犯」をあぶりだして、“金融犯罪人”として訴追するぐらいの迫力がほしい。
  日本や韓国、台湾なんかでもデモが行われたようですが、アジアの若者が貧しいのは、金持ちが原因ではないですよね。まあ、金持ちが米国の金融資本主義を牛耳っている人たちであるならば、それは正しいとは思いますが、漠然と金持ちに対して抗議していますよね。彼らのアピールを見る限り。
  米国そして欧州が金融ばくちを繰り返し、身の丈に合わない消費を繰り返し、返済する当てのない借金を積み重ねたから、そのとばっちりを受けたのです。いくら貿易でお金を稼いでもドルの暴落で、利益が目減りしたり、米国債を購入させられ、しっかり利益を搾り取られ、本来、国内に回るべき金が回らないから不景気が続くのです。
  日本や韓国、台湾の若者はかわいそうだと思いますが、単に金持ちを批判するのではなく、欧米がつくって、自壊しつつある金融経済システムについて、もっとしっかり勉強し、批判すべき点を批判すべきでしょうね。
  米国がきちんと経済運営し、正しい経済原則がはたらけば、アジアには、もっと巨額のお金が回っていたはずだし、とっくに欧米は没落していたほどの繁栄を享受していたでしょう。
  「ウォール街を占拠せよ」をただ単にファッション感覚でまねているだけなんでしょうね。ウォール街に集まっている人たちはアジアにとっては、「敵」ですからね。「おまえらの国はちゃんと借りた金を返すべきだ」と言ってやることです。奴らの国が私たちにやってきた仕打ちは、決して許すことができない暴挙です。
  この構図をわかっていないんでしょうね。ゆとり教育にどっぷりつかってしまった若者は、もっとものを考える習慣をつけた方がいい。金融経済の支配者を脅かすような、鋭い批判は何か考えるべきです。
  アジアでは「○○を占拠せよ」ではなく、ずばり「反米」あるいは「反欧米」で、いいのではないでしょうか。そうすれば、敵は何かをはっきり識別できる。
  それに、政府と結託して暴利をむさぼる連中を除いて、金持ち自体は敵ではないでしょう。人間にはそれぞれ才覚があり、金持ちになる人なれない人、人望を集める人、人望のない人がどうしても出てきてしまいます。それが人類の歴史です。また、お金という動機で、世の中、華やかになったり、新しい技術が生まれたりもせ売る。
  金持ちがいなくなったソビエト連邦では、今度は、権威主義がはびこり、共産党での地位がどうとか、町内会での地位がどうとか、お金とは違う尺度で、人間の差別が行われるようになりました。「格差」が起きるのは必然なのです。
  ただ、過度な格差や、理不尽な格差に対しては、何らかの対処をしていかなければならないでしょう。そこはしっかり訴えるべきでしょうね。
  チュニジアやエジプト、そしてイスラム諸国で起きている、反政府運動も根底には「反米」「反金融資本主義」があったのですが、欧米やイスラエルなんかが巧妙にコントロールして、結局はおかしな方向に進んでいます。
  何が問題なのか、はっきりさせないと、いつまで経っても、何も変わらないし、単なるガス抜きで終わってしまいます。いずれ内部分裂して、内ゲバみたいなことも起るんでしょうね。それこそが支配者層を喜ばせることではないでしょうか。