ピークシフト

  この夏に予想される電力不足で注目されているのは「ピークシフト」という考え方です。東京電力が打ち出した、家庭向け電気料金の値上げでは、需要が多い日中の料金を高くし、夜間の値上げを抑えることで、日中と夜間の電力使用量の差を小さくし、1日の電力利用を平準化することを目指しています。
  ピークシフトというのは面白い考え方だし、これから本格的な少子高齢化社会を迎える日本にとって、限られた資源、資金を有効活用する、知恵ではないかと思います。電力の使用形態を変えることで、景気浮揚につながる側面もあるのではないでしょうか。
  今のところ、日中と夜間の電力料金に差をつけることで、例えば夜中に洗濯機を使ったり、掃除機を使うように誘導することで、日中の電力使用を抑え込むのがピークシフトの中心になりそうです。音が静かで、より省エネタイプの家電の普及が見込まれるでしょうね。
  ただ、今後、家庭向けの高性能な蓄電池が開発され、普及すれば、無理に夜中に電気を使うようなことをせずとも、夜間に電力を電池にためておけば、それを日中に放出することで、結果として、電力利用は平準化できます。
  パソコンや携帯電話用の小型のリチウムイオン電池は、パナソニックやソニーが成長分野として重点的に投資してきましたが、価格競争が激化し、円高も逆風になり、中国など海外へ工場が流出しつつありますが、大容量の蓄電池は付加価値が高く、十分国内生産で対応できるでしょう。
  そういう日常生活面の狭い分野だけでなく、ライフスタイルの抜本的な見直しにつながればいいなと思います。人間は体のリズムがあるので、朝起きて出勤し、夕方、夜、帰宅するという基本的なサイクルを変えるのは不可能だし、健康にも影響するのでやめた方がいいでしょうが、休日を分散するのはアリではないでしょうか。
  今年のゴールデンウイークで人気スポットや観光地が混雑しているのを見て、あらためて思いましたが、特定のシーズン、休日に人が集中するのは、本当に無駄ですよね。
  ビジネスチャンスを逃さないために、ピークに合わせて、宿泊施設にせよ、リゾート施設にせよ、商業施設にせよ、公共交通機関にせよ設備投資する必要があるのですが、利用客が集中する時間帯を除いて、ほとんどは活用されない状態なのです。
  休日を分散して利用が少しでも分散化すれば、人が殺到するピークに合わせた投資は少し軽減され、稼働率も上がるはずです。長引く景気低迷で、しかも少子高齢化も進行する中、過剰な投資によるリスクを抑え、しかも投資に対する回収率も高まれば、プラスの影響が見込めるのではないでしょうか。
  それに混雑していると、どうしても提供されるサービスも低下してしまうし、利用する側もゆっくり楽しめないですよね。わざわざ混んでいて、しかも金を払ってまで質の低下したサービスを受けるくらいなら、家でゴロゴロしたほうがいいやと考える向きも多いのではないでしょうか。
  ご承知の通り、私はラーメン好きですが、長い行列に並んでまで、ラーメンを食べたいとは思いません。よほど食べる価値があるならば、あるいは自分が本当に食べたいと思うのならば並びますが、そういうケースはまれだし、長い行列ができるお店はなるべくピークには行かないようにするとか、そもそも行きません。
  ここしばらく続いている「安・近・短」ブームなんかも、そういうところを反映しているのではないでしょうか。ゆっくりと質のいいサービスを受けられるなら、多少お金を払ってもいいと思う人は少なくないはずです。価格破壊が進む一方で、いい物にはお金をかけたいという、成熟した考えが今の日本にはあります。
  だから、ピークにすべてが集中することで、本当なら対価をはらってじっくり休暇を楽しみたいという人のニーズに応えられず、ビジネスチャンスを逃してしまっていると言えるのです。
  みんなが一斉に働き、一斉に休むというスタイルを変えれば、工場やオフィスの稼働形態もまちまちになるでしょうから、電力、エネルギー利用の平準化にも多少なりとも貢献するのではないでしょうか。
  そもそも、これだけ地震、津波をはじめ、災害多発地帯にもかかわらず、原発に過剰に投資し、ものの見事に災害の餌食になってしまったわけですから、多過ぎる原発を減らす必要があります。そのためにもピークシフトを行えば、無駄な原発をある程度抑えることができるでしょう。
  ただ、ピークシフトを考える上で、考慮しなければならないのは、設備投資の余裕をどれくらい見込んでおけばいいかということです。現在はピークが高いことを前提に、わずかな余裕を持たせていれば対応できますが、利用が平準化された場合、突発的に需要が殺到した場合、対応しきれない恐れがあります。
  また、今後は、所得が向上した中国や東南アジアから観光客が増え、しばらくは緩やかであるにしても右肩上がりが見込まれるので、それをどうするか? 春節シーズンなどにどうしても利用客が殺到することになります。こうなるとなかなか、ピークシフトを導入しづらい面もあります。
  クリアすべき課題も少なからずあり、そのためにどういう対策を立てるか、知恵を絞らなければならないのですが、やはりピーク、オフピークの差をなるべく小さくし、効果的な設備投資を考えるという視点は、大切だと思います。