ラーメン道 地価押し上げる!? 埼玉・川越編1



  「川越の地価を上げる!? 名店!!」。食べログにこんな挑発的な口コミコメントが出ているのを見つけたら、チャレンジしないわけにはいかないでしょう。しかも、私が持っているラーメン雑誌のランキングでは、埼玉県ではナンバー1の評価。相手に不足なしとはまさにこのことでしょう。
  気象庁の長期予報によると、今年の夏は冷夏なのだそうですが、春先からすっきりしない天候が多く、確かにこれから夏が来るという実感が湧きません。それでも、昨日、東北の一部と北海道を除き、全国的に梅雨入りしたということなので、季節は確実に前に向かって進んでいるということでしょう。
  本格的に梅雨入りしてだらだらと雨が降る前に、外出して英気を養っておこうと、いろいろリサーチしていたら、このつけ麺店の情報にヒットしました。
  この日は、台風が本州に接近し、うっすらと雲がかかっていましたが、雨は降りそうになかったので、川越行きを決行しました。
  この川越も最近でこそ、昔ながらの蔵や民家が残る「小江戸」として、頻繁にテレビで取り上げられるようになり、何と年間600万人もの観光客が訪れるそうですが、ちょっと前までの感覚だと「川越ってどこ」「何があるの」という感じだと思います。メディアの影響力というのはすごいと思うし、そうしたものを利用して情報発信することで、観光地として売り出していくというビジネスモデルが確立しつつあるんだなと感じさせられます。
  個人的には、川越に住んでいる知人が、飲み会のたびに終電がどうのこうのいうので、「はるかかなたの地」という印象しかありませんでしたけどね。


  で、池袋から東武東上線の急行で30分とちょい。「意外と近いじゃん」という第一印象。駅前は駅ビルとか中型の商業施設、商店街がある、ごく普通の首都圏郊外の主要駅にありがちな風景が広がります。
  東武の川越駅はJRの駅に隣接し、そこから1キロもないようなところに東武の川越市駅があり、さらに旧市街地寄りに西武新宿線の本川越駅があるというごちゃごちゃしているところは、いかにも埼玉という感じです。交通の便はそこそこ良いのですが、整理し切れていないという。




  今回訪れた、埼玉ナンバー1ともいわれる、つけ麺(ラーメン)店「頑者」は、「地価を押し上げるかも」という評価の通り、本川越駅のそばの立地の良い場所にあります。もうちょっと情緒がある街並みかと思っていたのですが、PePeがあり、いかにも「西武王国」という雰囲気をただよわせていて、海外にも売り出し中の観光地の玄関口という感じはしませんでした。
  頑者はユニークなスタイルで、客が順番に入店するのではなく、一度に12人ずつの入れ替え制となっています。私は午後1時前に店に着いたのですが、なんとラッキーなことに、ぎりぎり行列の最後尾12人目ですべり込みセーフでした。この日はラーメンの神様が味方してくれたのでしょう。


  私の直後に来た人は一歩及ばず、12人が食べ終わるまで、さらに20~30分も待たなければならないという、ある意味理不尽なシステムで、さすがに食べログの口コミでも否定的な意見が目立ちますね。
  とはいえ、都心の新興店同様、接客は気合が入っていて、“定番”のがたいのいい黒Tシャツの4人衆がてきぱきと切り盛りしていて、不快な印象はありませんでした。
  せっかくなので、つけめんチャーシュー(1100円)の大盛(100円)を奮発して注文しました。列に並んで10分ほどして前の12人がすべて食事と会計を済ませたところで、店内に案内されました。


  事前に注文を取った割には、つけ麺が出るまでには時間がかかりましたね。5分ほどして、ようやく“着丼”。鶏ガラ、豚骨の動物系とカツオ、煮干し、昆布の魚介系をミックスした、つけ汁とのことですが、動物、魚介のダブルスープの場合、往々にして濃厚になりがちなところを、澄んだ、さらっとした感じに仕立てていました。興味が湧きます。
  つけ汁を最初に口にした印象は、見た目通り「あっさりしているな」という感じでした。というより、濃厚タイプのものばかり口にしているせいか、やや物足りなさがありました。動物系よりもむしろ魚介系を前面に押し出しているようなのですが、太めで弾力のある麺に押されてしまいます。魚粉が添えられているんですけど、これをつけ汁に溶いたり、麺にからませたとしても、力不足でしたね。
  豚骨魚介系のつけ麺は、どうやら同じような味に収斂しつつあり、悪くいえば画一化しつつあるようなのですが、理由はわからないでもないですね。重量感のある、もちもちした麺をつけ汁で包み込むとしたら、豚骨あるいは動物系の味を強めに出さないと、麺の迫力に負けてしまいます。魚介はつけ汁を引き立てるにはいいですが、主役を張るのは難しいということでしょうね。細麺なら、まだよかったのかもしれませんが。
  だからパンチがないというか、もうひと味ほしかったですね。例えば東池袋「大勝軒」系のような酸味を加えるとか、大泉学園の「蕃茄」なんかのように、トマトソースやチーズなどイタリアンテイストに仕上げてしまうとかしないと、物足りなさを解消できません。ちなみに300メートルほど離れた場所に中野の「大勝軒」系の「川越大勝軒」もありますが、そこは行列はできていませんでした。


  全体としては素材が厳選されていて、つくりはしっかりしていると思うので、ちょっと改良すれば、ものすごく良くなると思います。
  この日は平日だったので、それほど混雑はしませんでしたが、土日などは混むんでしょうかね。過去の写真を見ると、かつては何十メートルにも及ぶ行列ができていたようですが、舌の肥えている人からすると、「そこまでして」という評価が出るのではないかと思います。
  私と同じタイミングで入店したのは、サラリーマン風の人が6割強、あとは私も含め観光、散策目的で川越にやってきた感じでした。地元の人に愛されるのはいいですね。
  食べログでは、入れ替え制になじめないという声が散見されましたが、同感ですね。私は食べるスピードは決して遅い方ではないのですが、つけ麺を食べるときは、汁はねを気にして、どうしてもゆっくりになってしまいます。
  周りの人は結構、速いペースで食べていて、麺が5分の1ほど残っているときにすでに、早い人はお勘定を済ませていました。最後の方はせかされるような感じで、あまり居心地はよくなかったですね。
  つけ麺の根強いブームが続いていることに加え、川越自体が注目されているスポットなので、人気があるのでしょうが、他の有名店、人気店と食べ比べると、「おやっ」と感じさせられるでしょうね。
  さすがに地価上昇は持ち上げすぎでしょう(まあ、口コミのコメントは冗談めかしているのでそこまで本気に受け取らないでください)。「六厘舎」あたりなら分からないでもないですが(笑)。


  埼玉ナンバー1については、ラーメンの方を食べていないので、何とも判断できないですね。ただ、行列だけで判断しているなら、ちょっと的外れかもしれません。ラーメンブームで一躍脚光を浴びもてはやされたはいいが、その後鳴かず飛ばずのお店は何軒もありますからね。
  私が店を出た後も、頑者の行列は途切れず、最後尾の人は2回転ほど待たなければいけない状況でした。まだまだ支持は高いようです。