ラーメン道 怖いほどイタリアン! 練馬編1

  つけ麺スペシャルまだまだ続きます。ラーメンをしのぐ勢いで台頭しているつけ麺とはなにものなのか? なぜ受けているのか? 人気は長続きするのか? ということを自分なりに解明してみたいと思い、徹底的にいろんなところで食べてみたいと思います。
  時代の流れやファッション、人々の嗜好の在り方といった、単なる「食」を超えたところで、いろんな真実が見えてくると思います。投資にせよ短期のトレードにせよ、そこの感覚が大事ですよね。大きな流れを意識しつつ、その中でわずかな変化や何に関心が集まっているか、勢いのあるものないものを見極めることが大切です。
  中にはブームに単純にのっかる形でつけ麺を始めた店も多いですが、つけ麺をあちこちで食べての印象は総じて、レベルが高いです。地に足が着いたブームだと思います。
  その一方で、食文化としてつけ麺が定着するのか? そこはまだ未知数ですね。つけ麺に飽きたらラーメンに回帰する可能性もあるし、さらに違ったスタイルの麺料理が台頭し、つけ麺をあっという間に片隅に追いやってしまうかもしれません。これからは景気動向も気になりますね。




  今回は、阿佐ヶ谷の「麺爽 かしげ」の姉妹店だという、練馬・大泉公園のトマト風味を押し出したつけ麺が売りの「麺屋 蕃茄」を訪れてみました。かしげでは、つけ麺がチーズとマッチするかどうかを確認できたわけですが、さらに一歩進めてイタリアン風になるとどうなるかというのを確かめたかったので、蕃茄を選びました。
  結論から先に言うと、思った通りイタリア風のつけ麺でした。味が良く練れていて、本当においしくて、ここでも十分過ぎる満足感を得ることができました。でも、イタリア料理を食べているのか、それともイタリア風にアレンジされた日本の麺料理を食べているのか、分からなくなり、自分の目的を見失いそうで、率直に言って怖い感じでした。
  私はかつて荻窪に住み、中央線沿線(と言っても主には中野~西荻窪間にすぎませんが)を徘徊し、1990年代にラーメンブームの第一波が訪れ、その後しばらくして環七通りに新興のラーメン店がぽつぽつとでき始めたあたりから、ラーメンを本格的に食すようになったので、中央線、環七通りを軸に考えてきましたが、その発想は捨てた方がいいですね。完全に。
  おいしい物を提供するお店はどこにでもあるし、野心や気概を持った人もあちこちにいます。限られた地域にしかないというのは非常に狭量な考えであることを思い知らされました。
  練馬区は、スバ抜けて有名な店というのはあまり知りませんが、西武線の各駅周辺には学生や若い世代が結構集まっていて、古くからちょこちょことラーメン店、小規模の中華料理店が目立つ地域でした。実際に情報収集してみると、面白そうなお店があります。
  知り合いが春日や上石神井にいて時々、飲みに行ったりするのですが、練馬でラーメンを食べるのはもしかすると初めてかもしれません。




  蕃茄は西武池袋線の大泉学園駅の線路沿いにあり、南口から歩いて1分という至近距離。電車の車窓から見えるかなと思ったら見えました。昼の1時前でしたが、自転車に乗ってきた近所の人らしき人が入店する様子が見え、「地元の人に受け入れられているんだな」と感じました。
  長引く不況で、東京でも駅付近のビルは空室が目立ち、未活用の建物、土地がちらほら目につくようになりました。阿佐ヶ谷・かしげも駅のそばですが、地の利のいい場所にラーメン店とか、ちょっとこだわりを持った店が入るのはいいですね。消費者金融、コンビニ、ケータイショップが目立つ街の風景はもう見飽きました。
  街に占めるラーメン店の割合なんてささやかだし、経済効果もしれているでしょうが、それでもおいしいものを食べてほしいという思いを受け止めてくれる人はいるだろうし、少しずつでも輪が広がればいい。いくら「地域に貢献」とか「コミュニティーを支える」みたいなきれいごとを並べ立てても、所詮、大手チェーンは大企業の論理でしか動かないし、彼らの思い描くようにお金が儲からなければ、その地域なんかどうでもいいのです。これも金融資本主義の害毒ですね。
  お昼時だったので、15席前後のカウンターはほぼ満席でした。トマトが売りだけあって、女性は敏感ですよね。近所の年配の主婦がおひとり様でいたり、ママ友らしき3人組、近くの会社に勤務しているとおぼしき女性会社員風の人などなど、女性比率が高かったですね。
  厨房は若い男性3人で切り盛りしていました。海老トマトつけ麺(880円)を選択。麺はこのお店も並盛、大盛、W盛がすべて同価格で、このところ復調著しいのでW盛にしました。

 
  店内は混雑していましたが、5分もしないうちに“着丼”。つけ汁は色合いからしてミートソースみたいな感じがしますが、エビのだしがきいた、豚骨、魚介ベースです。麺の上には、絹さやとトマトが盛り付けられ、色取りもいいですね。女性に受け入れられやすいと思います。
  麺はかしげ同様、太麺で、おそらくタピオカが入っているんでしょうね。コシがあって、パスタとはまた違う食感で、ここはさすがにイタリアンでなく、和風のつけ麺だということを感じさせます。
  弾力があり、重量感もある麺をたぐって、麺の先をちょこっとつけ汁につけ、口に運ぶと、トマトの酸味がほどよく利いていて、「う~ん、なるほどな」と思います。やはり、イタリアンですよ。イタリアン。
  イタリア料理でもだしが料理の深みを演出しますが、豚骨、魚介のダブルスープをベースにエビのだしが、奥の深さを加え、その上にトマトが統一感をかもしだし、普通考えられているつけ麺やラーメンの枠を超えて、まったく別の麺料理に生まれ変わったという感じです。
  ラーメンというのは、料理界ではどちらかというとサブカルチャー的な位置づけだと思います。ベースに日本そばや中華の麺料理があったり、水餃子とか、中華料理で定番の各種スープ、韓国の冷麺の影響なんかもあるかもしれません。


  主流の料理の影響を受けつつ、発展したきたのがラーメンであり、つけ麺でしょう。イタリア風のパスタの影響を受けて蕃茄のつけ麺が誕生したのも、そういう図式で考えると、自然なことですね。
  ただ、この海老トマトつけ麺は、かなりよくできていて、「イタリアンもどき」を食べているのか、「イタリアンの新しい料理」を食べているのか、分からなくなってしまいます。
  店主は中華料理店で修業された方のようですが、麺料理の原点は中国にあり、それがイタリアやら日本に広まったことを考えると、中華、イタリアン、日本を飛び越えた麺料理をつくりだしてしまったということでしょうか。
  単なる「中華そばもどき」、「イタリアンパスタもどき」、「日本そばもどき」ではなく、3つの系譜を受けた麺料理を融合してしまったのかもしれません。
  トマトは最近、ダイエット効果が注目されていますが、脳をすっきりさせる働きがあり(体質に合う人と合わない人がいますが合う確率が圧倒的に高い)ヘルシーな上、見た目も味も女性に受けることは間違いないと思いますし、イタリアンに造詣の深い人にも一度食べてみてほしいですね。受け入れられやすいのではないでしょうか。
  トマトを加えたつけ麺は、もっともっと発展する可能性があると思いますし、都心に出て注目を集めれば、競うようにいろんなスタイルの麺が生まれてくるでしょう。それにしても、どエライものが出てきたなと感じています。