幻滅

  何年も金融市場にかかわっていると、人間の本質(自分自身のエゴも含めて)が見えてきて嫌になってきますが、マーケット以外の世界で、他人に期待していたことや思い抱いていた好印象が裏切られると、本当にショックを受けます。自分の身勝手な思い込みにすぎないし、はたからみれば言いがかり、いちゃもんのレベルなのですが、人間というのは幻想とか錯覚にだまされやすい生き物なのでねぇ。悲しい性です。
  先日、大学時代の友人と久しぶりに集まったんですよね。親しい間柄で2、3人集まって、ご飯を食べるぐらいのことはあったのですが、みんな海外勤務とか地方に転勤とかあって、本格的に一堂に会するのは10年ぶりぐらいで、結構、テンションが上がりました。
  で、今回は、仲間内でも“マドンナ”的存在で、誰もが知っている有名企業(本当に人物が特定されてしまう可能性があるので、どの業界かも言えません)に勤める女の子が忙しい中、参加してくれるということで、さらにさらに期待が高まりました。
  彼女、学生時代は結構、私に対して好意的にみていてくれたんですよね。それとなくメッセージを送ってくれることもあった。その当時、私は鈍感だったし、別の女子大の女の子に熱を上げていたので、あまりまともに受け止めませんでした。
  某ファッション誌のモデル(まさに読モ)を務めたこともあって、本当に美人(瀧本美織さんをやや昭和風のテイストにした感じ)で、私なんかまともに相手にしてくれないだろうとも思っていたし、実際に付き合ったら、プレッシャーで、彼女の要求を背負い込めないだろうなとも思っていました。
  そんな彼女なのですが、まだ独身なのだそうで、今回、再会して、もし意気投合すれば、ご飯を一緒に食べる間柄からでもスタートしてもいいかな、なんて、勝手に思っていたわけです。我ながら馬鹿だねぇ。まったく。
  それでいざ、集まりの当日、用事があって、私は会場のエスニックレストランに、1時間ほど遅れて到着したのですが、「仕事で遅くなるので、もしかすると2次会から参加するかもしれない」と言っていた彼女がすでにいて、しかも、彼女の前の席が空いていたんですよ。
  その日はこの冬一番の寒さを記録した日。ダイエットで痩せてしまい、本当に寒さが身に染みる私は「寒いよね~」とか言いながら、そして、思いっきり中年太りの周りの連中から「そうかぁ?」とか声を掛けられながら、クールな表情で、彼女の正面に座りました。
  さすがに歳には勝てませんね。彼女のメークはやや厚塗り感がありました。まあ、人間誰しも歳を重ねるわけで、それを細かく詮索するのは野暮ってもんでしょう。でも、モデルだっただけあって、今会っても美形でした。
  この日参加できなかった仲間の話やなんかでちょっと盛り上がって、冷えた体も少しずつ温まって、私も徐々にエンジンがかかってきました。
  ふと、誰かが私に「お前まだ独身だよな」みたいな話を振ってきて、ぼそっと「そうだよ」って答えたら、彼女も「え~!私も~」って、こちらが驚くほど、食いついてきてくれて、しかも、彼女はかいがいしく、ビールをついでくれたり、料理をとってくれたりと、かいがいしくしてくれ、いい雰囲気になってきました。
  30分後くらいして、別のまさにキャリアウーマンの女の子(外人と結婚した後、バツイチ)が遅れて参加して、私の隣に座ったのですが、子供の話になって、子持ちのこのキャリアウーマンは「放射能って不安だよねぇ。なんか重大な事実でも隠してるんじゃないかしら」と話しだしました。
  私の放射能に対するスタンスは皆さんもお分かりでしょう。「危ない時期は事故があった最初の半月で、あとは全然大丈夫だよ。安心して子育てして」と言ってあげました。世間一般の人は理解がある人ばかりとは限らないので、もちろんかなり抑えた口調でです。
  そうすると、向かいに座っていた、マドンナの彼女が突然、表情を変え、「そんなことないわよ」と厳しい口調で一言。「えっ」? 虚を突かれた、私は何が起きたのか事態をのみこめませんでした。
  さらにヒートアップし、「放射線はDNAを傷づけるから体にどんな影響があるかわからないのよ」「勝手に安全をあおるのって私は違うと思う」とまくしたてられました。
  やがて、やや突っ走りすぎたことに気付いた彼女は、すっかり気おされて引いてしまったしまった私と、会話の発端となったキャリアウーマンを前に、ややばつが悪そうな表情を浮かべました。
  学生時代は、結構、お嬢さんキャラで、おバカっぽさも持っていた彼女だったのですが、社会に出ると、キャリアが人を変えてしまうのですね。あんなに熱い人だとは思いませんでした。私は、たわいもないグータン・ヌーボーっぽいガールズトークをするのが楽しみだったのですが。
  世間の人が放射能に過敏になるのは分からなくないのですが、私は、必要以上に怖がる感覚が理解できません。ラジウムがあると知らずに暮らしていた世田谷の一家は深刻な健康被害があったとは認められていないじゃないですか、宇宙飛行士の古川聡さんは、福島原発の除染作業員よりも高いレベルの放射線を浴びているじゃないですか。
  政府をただ批判したいだけの運動ゴロとか、放射能ママとか、私の軽蔑する人たちと同じような(さすがにそこまでひどくはないですが)発想を持っているということが悲しかったですね。
  彼女に告白したわけではないですが、ふられたような気分になりました。というよりも、私の中の(勝手な)彼女に対する幻影が消えてしまい、むしろ何となく、嫌悪感を持ってしまいました。
  人と人との関係は難しいですね。でも、彼女のありのままの姿を見ることができてよかったのかもしれません。いつも言っている通り、「これもまた現実」です。粛々と受け止めなければなりません。
  でも、やっぱりちょっとショックだったなぁ。結構、へこみましたよ。はい。こういうのまじキツいっす。