統治能力

  東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で露呈したのは、今の日本は統治能力を完全に失ってしまっているということです。当時の菅直人首相や、民主党政権だから云々ということで批判が集中し、結局、首相交代ということになったわけですが、自民党が政権に就いていたら、うまく巨大災害をうまく乗り切れたかというと疑問ですね。官僚との連携がスムースな分、まだましだったかなとは思いますが、政治家の能力が全体的に低下しているのと、官僚自身が「想定外」にからっきし弱いので、情報を的確に分析し、速やかに適切な対処ができたとは思えません。
  ごく当たり前のことができないんですよね。もちろん未曽有規模の災害だったので、そこは考慮する必要があったのですが、ちょっと想像を働かたり、声に耳を傾ければ、「被災地の人たちがこういうことで困っている」とか「次は何が必要だ」みたいなことは分かるはずで、できることから手を打っていけば、事態は少しでも早く好転していたはずです。
  米国なんかは、原発事故直後にさっさと軍隊や大使館員を避難させ、無人偵察機を飛ばして被害状況を確認した上で、「(首都圏が放射能汚染で居住不可能になるという)最悪の事態は免れた」とわかると、相次いでいろんな手を打ってくるわけです。
  気持ち悪い「トモダチ作戦」なんかもそうだし、金融市場に対する攻撃もそうでした。日経平均先物は一時、7800まで突き落とされ、ドルもあっさりと史上最安値に下落し、底値で買いあさった上で、2、3日もすると何事もなかったように戻したわけです(ドルに関しては介入で戻したのだが・・・)。トロい日本の機関投資家や個人、さらには欧州の投資家はまんまと米国の金融詐欺にまたしてもやられてしまったわけです。
  日本の統治能力のなさはもちろん日本人自らの問題であるわけですが、実質的に日本を支配している米国によるところも大きい。特にバブル崩壊以降、その傾向が顕著です。
  それというのも、米国が東西冷戦後、“同盟国(保護国)”であった日本をはっきりと敵と認識し、日本を完全にコントロールしようと画策してきたからです。金融面でそれが顕著ですね。日本の大手銀行を身勝手なルールに従わせて弱体化させ、米国債を買わせたうえでドルの価値を下落させ貿易黒字を搾取し、さらには郵政民営化で郵便貯金をむしり取り、完全に丸腰にされてしまった。
  さらには、日本の製造業が強いとみると、わけのわからない特許訴訟を起こしたり、ハイテク技術だった液晶や半導体などを韓国、台湾に強制的に技術移転するように仕向ける。米国製のボロ車なら問題にしないような欠陥をあげつらってトヨタを攻撃するなどなど、やりたい放題でした。
  軍事的、経済的に米国に依存せざるを得ないので、米国の要求に唯々諾々と従っていたら、気づいてみたら、何をするにも米国の許可がないとできないようになっていた。今では、日本を財布程度にしか思ってないので、増税をさせるのも、為替介入をさせるのも米国の思うがまま。役人が鉛筆1本買うのも米国の許可が必要なのではないでしょうかね。冗談抜きで。
  日本人が統治能力を取り戻すには、国民に選ばれた政治家がリーダーシップをとる「政治主導」が不可欠なのですが、日本が主体的に何かしようとすると、嫌がらせをするんですよね。
  私は個人的には好きにはなれませんが、小沢一郎・民主党元代表に対する攻撃は常軌を逸しています。一昨日の秘書3人に対する政治資金規正法違反での有罪判決は、検察側が証拠を提出しなかったことまで、“事実”として認定してしまい、官僚(検察)はおろか、裁判所まで米国の支配下にあることをあらためて見せつけました。
  これはロッキード事件でもわかっていたことですが、「あいつを有罪にする」と方針を決めてしまえば、証拠などどうでもいいのです。証拠なしで有罪にできるということは、私たちトレーダーだって、たとえば風説の流布とか、「あいつはカネに興味があるから」といって身近な窃盗事件で逮捕されてしまうことだってあり得るわけで、どれだけ恐ろしいことか。
  日本の自立を主張する政治家は目障りなわけで、簡単に言えばつぶしてしまえということですね。米国債の購入を断って、政治的に抹殺された故・中川昭一元経済財務相、北方領土返還交渉で派手に動き回った鈴木宗男元衆院議員なども同じ構図。日本が米国抜きで東アジアや東南アジア諸国と連携しようとする構想はことごとくつぶされてきました。
  何かしようとすると米国に頭を押さえつけられるので、国益のために国民のために何かをしようとする気持ちは起こらなくなりますよね。加えて中途半端なエリート意識や、プライドがあるので、ややこしい状況になります。
  米国による支配を抜け出し、日本人の手で統治能力を取り戻そうとするならば、政治主導がだめならば、地方分権しかないし、これからの時代、一極支配より、地域に権限を移譲したほうがより実情に根差した行政ができると思いますが、前途多難ですね。大阪府の橋下徹知事なんか、真っ当なことを言っているように見えますが、本当に望ましい形で地方自治が実現できるのか? まだこの人物の評価は定まりません。
  確かに日本は統治能力を失っていますが、欧州危機なんかを見る限り、どこも似たようなものですよね。日本よりは米国の圧力が緩いので、自分たち自身で何かできる裁量の余地は大きいと思いますが、結局、自らを律することができず、自滅しようとしています。
  諸悪の根源である米国にしても、軍事力と金融を背景に他人に干渉することには長けていますが、自分自身で何かをつくり出すという能力がかなり落ちているので、経済破たん状態で、自分自身が身動きできなくなってしまっています。
  地道な国づくりを怠ってきたので、国家破綻という事態に陥れば、国民の怒りが爆発、暴走し、統治できなくなる状態になるでしょうね。米国で内乱(civil war)が起きる可能性はかねて各方面から指摘されています。
  大きな政府が広い国土と大勢の国民を統治するという時代が終焉しつつするということも認識しておかなければなりません。大きな力がすべてを支配するというのはもはや限界に近づいており、これからは小さくて、多様な組織が重要な役割を担うというのが新しい、あるべき姿ではないでしょうか。