電子敗戦

  米ラスベガスで開催中のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)。このところ、毎年話題になるのはテレビで、イノベーションが目に見えるのはこの分野しかないといっても過言ではないので、実質的に新しいテレビのコンセプトを競う、ショーと化しつつあるのですが(一応、スマホなどもある)、今年もまたまたテレビ主体の展示になっています。
  予想されていたことなので、今さら驚くべき話でもないのですが、さらに勢いを増すサムスン電子、LG電子の韓国勢と、落日の日本メーカーの差が今回のショーでますます鮮明となりました。
  背景には円高、ウォン安と、米国が韓国を増長させているという政治的側面もあるのですが、それ以外にも、日本メーカーのグローバル視点の欠如、積極性のなさという、致命的な欠点もあります。
  ショッキングなのは、韓国勢が有機ELパネルの大型化と、量産化を実現し、年内にも本格攻勢できる体制を構築しつつあるのに対し、日本メーカーは液晶の高精細化とか、インターネットテレビを使いやすくする新型リモコンとか、従来の技術やコンセプトの延長上にしかないという点です。
  もちろん、有機ELだって今に始まった話ではなく、6、7年前から、どの段階で大型化、量産化されるかということは議論されており、ソニーが世界に先駆けて、商品化しているわけです。
  しかし、完全に開発や設備投資のタイミングを見誤り、商品化も不発に終わるという、このところの日本メーカーの負けパターンがまた再現されました。
  サムスン電子なんかは、早い段階でスマホ「ギャラクシー」に有機ELパネルを搭載して、認知度を上げ、小型パネルの量産体制を整えた上で、テレビ分野に攻め込むわけですから、かなり計算して戦略を立ているわけですが、これに対して、日本メーカーはテレビ事業の見通しを見誤り、リストラに追われる状況です。
  おそらく、今年の年末商戦には有機ELの大型テレビが間違いなく市場投入されるわけですが、サムスン電子やLG電子のコンセプトモデルは本体の厚さが5ミリを切っており、おそらく同等のモデルが出てくることが予想されます。
  高精細で超薄型のテレビが家電売り場に並ぶ一方で、ソニーやシャープやパナソニックの旧式の液晶やプラズマパネルをつかったテレビが雁首をそろえるわけです。消費者はどちらに興味をひかれるでしょうかね?
  おそらく韓国勢が売り場を席巻し、売り場の大部分を占めるのに対し、日本勢は隅っこに追いやられるか、下手をすれば売り場から締め出されることでしょう。
  パナソニックが有機ELへの参入を表明したようですが、どうやってパネルを調達するのか? プラズマの生産をやめる尼崎工場で作るのか? 韓国あるいは台湾から外部調達か? かなり苦しいし、劣勢の戦いといわざるをえません。
  それよりも液晶とプラズマの二正面はいいかげんやめ、液晶にまずは一本化するべきなのではないでしょうか? 相変らず不可解な経営をする会社です。
  ソニーも米国人にのっとられてから訳のわからない会社になってしまいました。映像、音響とソフトの両立でブランドイメージを築けばいいと思いますが、中途半端ですよね。アンチ・サムスン電子、アンチ・アップルで、それなりの存在感を示せるはずですが。
  シャープは薄型テレビのパイオニアとして果たした役割は過大評価してもしきれないくらいだと思いますが、企業の規模が小さすぎます。有機ELに対抗して、バックライトではなく、画素子にLEDを使ったテレビ(今回のショーでソニーが出展しているようです)に期待したいところですが、規模が物を言う世界で、独自路線でどこまで続けられるか。ソニーやパナソニックと違った難しい事情を抱えています。
  東芝あたりは伏兵でおもしろいんですがね。技術的なポテンシャルもずばぬけて高いです。ただ、原子炉や発電機など重電の余技として家電をやっているような感じでもあるので、どこまで真剣にやるかは未知数です。
  これは何度も触れていますが、欧米は人種差別意識もあって、日本が半導体をはじめ、ハイテク製品をつくれるとは思っておらず、技術や特許に対する保護が甘かった。そこへ日本メーカーが1970年代終盤から80年代にかけて猛攻勢をかけるわけです。
  大成功を収めた日本は、「電子立国」と有頂天になりました。1991年の湾岸戦争でも米国のハイテク兵器は日本製の電子部品なしでは成り立たないという状況になったのです。
  電子戦争の緒戦で日本は勝ったわけですが、米国の反撃もすさまじかった。韓国や台湾をけしかけて、日本のアドバンテージを奪い取る作戦に出ます。同時に大量生産、価格下落により、高付加価値だった電子製品をコモディティー化させてしまった。
  日本はじり貧に陥り、1990年代終盤から2000年代に入って、テレビや半導体で、韓国や台湾とほぼ互角かやや劣勢の戦いを強いられます。
  そして、リーマン・ショックを経て2012年。日本は円高、ウォン安の金融攻撃ともあいまって、完全に韓国勢(おそらく台湾勢も)の先行を許すことになりました。完全なる「電子敗戦」です。金融機関が徹底的にたたきのめされたマネー敗戦と似たような構図が見て取れます。
  韓国勢が長続きするかどうかは、今後の米国、あるいは中国の動向次第です。彼らだって、朝鮮半島の下半分の鼻くそみたいな国家によって支えられているわけですから、日本メーカー同様、いつでも簡単にひねりつぶされる可能性はあるわけで、現に米国から暗に嫌がらせを受けています。
  ただ、韓国勢の強みは、そのあたりの事情もわかった上で、自分たちのできる範囲で対策を取ろうとしていること。ここは日本とは大違いですね。
  日本のばか面をした企業トップは自分たちが米国の奴隷であることすら気付いていないのですから。