高尾山で鍛える



  いい気候になってきたので、今年の目標として、「足腰の強化」を図ろうかと思っています。昨年はダイエットに励み、半年でピークから15キロ減量を達成、現在は、多少の上下はありますが、かつて体重70キロ超だったのが、60キロプラスマイナス1キロで安定して推移しています。
  無駄な脂肪を一掃することができたので、今度は質を高めるべく、単に体重を減らすだけでなく、必要な筋肉をつけたいと思っています。筋肉といっても、ウエートトレーニングや、ボディービル的な、無駄な筋肉をつけても、それを維持するのに余計なエネルギーを使うだけなので、最も実用的で、先々を考えても有意義な、足腰を鍛えようということです。


  元々足には自信があります。小学生のころから短距離走ではクラスで1、2番だったし、長距離走も人後に落ちることはほとんどありませんでした。学生時代のアルバイトも立ち仕事が多く、それでさらに足腰が強化されました。
  私のかかりつけの漢方医によると、私の場合、脳の左足をつかさどる部分の血流が異常なまでにいいのだそうです。確かに利き足は左足で、どうやら本当は私の利き手は右手のようなのですが、足にひきずられて左利きです。高校時代、野球をやったときに、左腕を痛めたので、試しに右で投げたら、左で投げた時とおなじぐらい遠投ができたので驚きました。右利きで左足が強いという医師の診断を聞いて納得しました。
  ただ、問題は、左足の力が強すぎて、体のバランスが崩れているというか、足を使いすぎると、弱い右側に負担がかかるし、足の働きに心肺機能がついていかなかったり、左に意識が集中し過ぎて方向感覚を見失ったりなんかもします。


  その辺を意識しながら、足腰を強化することで、両足をバランスよく動かすことによって右半身を強化したり、足についていけるよう心肺機能を高めたいと思っています。
  普段からぶらぶら街歩きをするので、それなりに足腰に負荷をかけているのですが、これからはもっと鍛錬しようということで、手始めにミシュラン三ツ星の高尾山に登ってきました。
  行楽シーズン真っ盛りになってしまったのですが、本来は3月か4月に実行するつもりでした。何しろ、3月中は気温が低く、4月も何となく体調が本調子ではなかったので、ずれ込んでしまいました。
  ゴールデンウイークの後半、特に予定もなかったので、決行することにしました。東京は朝からどんよりしていて晴れのち雨の予報で、不安はあったのですが、八王子方面の天気を調べると、雨雲はかからず、雨が予想されるのは東京都心部のようだったので、この機会を逃せば、ずるずると後に延ばしてしまいそうだったので、思い立ったが吉日ということで登山へ出発しました。何事も勢いが大事ですね。


  1時間ちょっと電車に揺られ、11時半すぎに高尾山口に到着。登山と言っても、ちょっとしたお散歩感覚で登山なので、私はラーメン店巡りをするような服装でしたが(もちろんいくら低い山でも自然が相手なので、あなどってはいけないのですが)、いるんですね“山ガール”と呼ばれる人たち。さすがに登山初心者向けの高尾山なので、ほんのごく一部でしたが、ちょっと気合の入ったデザインのパーカーと、丈の短いスカート、レギンスといういかにもというスタイルでした。実際に山ガールを見るのは初めてですが、はっきり言ってセンス悪い。本人たちはそれで幸せなんでしょうから、それでいいのでしょうけどね。


  高尾山にはいくつかの登山ルートがあるのですが、久しぶりの登山なので、舗装されている一番手軽な道にしました。正午前に上り始めましたが、観光案内所でもらったマップでは、90分で山頂に着くのが目安。登頂のご褒美に高尾山名物の「とろろそば」を食べようと思っていたので、ちょうどいい時間です。
  空一面、やや重たい雰囲気だったのですが、薄日が差すこともあり、山頂に着けば晴れ渡っていると期待して、坂道を上りました。このところ天気が悪かったこともあり、道はややぬかるんでいました。
  太陽の光はほとんどさえぎられていましたが、それでも新緑の緑がまぶしく、木々の間を吹き抜けるそよ風が心地よく、かえすがえす、ときには自然に触れるのはいいことだなと思いました。巷でいわれているように、森林からはいろんな物質が出ていて、心身にいい影響を及ぼしているのでしょう。たぶん。


  登り始めてちょっとしてから、空が「ゴロゴロ」鳴り始めました。それでも雨が降り出す気配はなかったので、前進あるのみ。斜面はそれほどきつくなく、いつも街を歩くのと同じ速足で、どんどん進んでいきました。
  20分ぐらいして、雷が断続的に鳴り、ポツリポツリと雨が降り出しました。山の天気は変わりやすいとはよく言ったものです。周りの登山客はレインコートを着たり、傘をさし始め「ちょっと、やばいかなぁ」と思いましたが、中途半端なところまで登ってしまったので、引っ込みがつきません。
  しばらく歩くと、ケーブルカーの山頂駅にたどり着きました。普通の山だとそこが山頂なのですが、高尾山はそこから2キロほど歩かないといけないので、これが大変です。上り坂はもうほとんどないんですけどね。


  ケーブルカーの駅を過ぎると、少し開けた場所があって、下界を一望できるのですが、まだ、本格的に雨雲に覆われていなかったので、見通しは悪くなく、都心の方に目を凝らすと、都庁周辺のビル群や、なんと東京スカイツリーまで望めました。ちょっとテンションが上がります。
  そこから山頂の1キロほど手前にある薬王院をまずは目指すわけですが、最初は通り雨程度なのかなと思っていたら、雨は勢いを増し、スコールのような状態になってきました。下山する登山客からは「天気が悪くならないうちに登ってよかったね」と心にぐさりと突き刺さる声が聞こえました。足腰を鍛えるだけでなく、精神修養にもなりそうです。




  道沿いの茶屋は雨宿りする人で混みあい、最初から立ち寄るつもりもありませんでしたが、とにかく山頂を目指すことにだけ専念しました。薬王院でも山門や、境内の軒先は雨を避ける人でいっぱいでした。
  トレッキングシューズを履いていたのですが、鉄砲水のように勢いよく大量の水が流れ落ちる場所がところどころにあり、少しずつ水が浸入。靴下はすでにびしょびしょで、ひたひたと独特のいやーな感じになりました。




  薬王院から先はほとんど舗装されておらず、雨がじゃんじゃか降る中、泥をはね上げながらも歩き続け、何とか山頂にたどりつきました。さすがに雨のため途中でペースが落ちたので、到着したのは午後1時15分ごろ。観光マップの登山目安時間とほぼ同じ85分で登頂したことになります。




  もやに覆われ、視界はよくありませんでしたが、何とか登り切った達成感があり、ちょっとすがすがしい気分になりました。奥多摩の周囲の山々が望め、それなりにパノラミックな景色も楽しめました。
  山頂には3軒ほどお茶屋さんがあり、登頂のご褒美のとろろそばを食すことにしました。さすがに土砂降りの雨の中、山頂を目指す人は少なく、危険を察知した人たちはさっさと下山してしまったので、店内はお昼時にしては、空いていました。




  温かいとろろそば(950円)を注文。山頂のお店で、殿様商売でしょうし、あまり期待していませんでしたが、素朴な、そばの太さにばらつきがある田舎そばで、予想外においしかったです。ちょっとゆで過ぎていたのが、残念でした。汁は関西のそばうどんのような薄味だったのですが、悪くありませんでした。
  そば店を出ると、雨脚は弱まり、空がやや明るくなっていました。ここからはほぼ一貫して下りなので、まだ雨はやんでいませんが、足取りも心も軽快になります。




  帰りは、薬王院やケーブルカー駅周辺に集まる、お店で売っている、だんごなどを買い食いすることにします。甘いものが食べたかったので、まずは、薬王院近くのお店で、あんこ入りのおやき(250円)を食べました。これが登山でちょっと疲れている体にとてもやさしくおいしかった。




  もう少し甘いものが食べたくなり、少し先に進んだところにあるお茶屋さんの店先で、ミルクジェラートで(350円)を購入。ミルクが濃厚で、これまた体に染み入りました。


  そして、一番食べたかったのが、だんごです。ケーブルカーの駅の近くの屋台で「三福だんご」(300円)というのを買いました。むちっと弾力あるだんごに、甘辛いしょうゆだれがよくマッチしていて最高でした。




  雨はほとんどやみ、薄日が差してきました。空の重苦しい雰囲気から徐々に解放されました。帰りはケーブルカーで下ってもいいかなとも思いましたが、行きしな40分強かかった坂道をどのくらいの時間で下れるか、知りたかったので、徒歩で下りることにしました。
  全体的に緩やかな坂だし、舗装されているので、重力の法則に従って、速足で下りました。麓まで約20分。のぼりの半分くらいの時間で済みました。




  最後は、麓のお店が集まっているエリアで、もう一度、名物のそばを食べて締めくくることにしました。10軒以上が立ち並んでいたのですが、何となく目についた、「紅葉屋本店」に入りました。山頂でかけそばを食べたので、今度は、冷たいとろろそば(920円)を注文。高尾といえばそばといわれるくらい有名だけあって、そばの出来は、非常に良かったです。惜しむらくは、つけ汁ですかね。私はかつお風味の中で、きりっとした醤油の味が一本立ったそばつゆが好きなのですが、このお店のは、きりっとし過ぎていて、だしの力がやや押されていました。




  そばを食べ終わって、高尾山口の駅に再び着いた時には、いままでがうそのように、青空が顔を出し、軽やかでさわやかな空気が広がっていました。
  足腰強化プロジェクト第1弾でしたが、さすがに初心者向けの登山だっただけに、軽くクリアできたと思います。疲れたとはいっても、その辺を街歩きして、ちょっとくたびれたというのとほぼ同程度ですね。その辺少しは自信を持っていいのかなと、あらためて感じました。
  今後は、足腰をもう少しいじめてもいいかなと。適度に負荷をかけ、筋力をつけていければいいなと思っています。
  土砂降りの雨で大変でしたけど、これも修行のうちですよね。苦労は買ってでもした方がいい。ここで経験したことが、何かに役に立つことがきっとあることでしょう。むしろ何事も順風満帆で、平和ボケしてしまう方がこわいです。