時代を生きる

  これから、いい時代になるのか、悪い時代になるのか、分かりませんが、どんな時代になろうとも、生き延びていかなければならないし、もしその努力をあきらめるのならば、それは敗北あるいは自分自身の死を意味することになるでしょう。
  平和な時、景気が良い時、豊かな時が多くの人が考える、いい時代なのでしょうけれども、案外、苦難を乗り越えようと努力している時とか、貧しくても何か目標があって努力している時の方が、いい思い出になっていたたりします。
  昭和30年代の東京が舞台の映画「Always」シリーズは、中高年の人を中心に幅広い層から根強い人気を博していますね。私自身は、つらいと感じる時でも“Now is the best time”と考えているし、現在の生活を送っていたり、価値観に浸っていると、昭和30年代に戻りたいなんてとても思えず、あの時代を必要以上に美化するのもどうかと考えますが、それでも何か訴えかけるものがあるのでしょう。
  長くつらかった戦争が終わり、焦土から少しずつ復興し、豊かさを取り戻す兆しが見え、人々が本格的に前を向いて進み始めた時期で、あれほど多くの人が希望に燃えている時代も、ほかにないことは事実で、あのころのひたむきさ、前向きさを取り戻したいという願望もあるんでしょうね。特にその時代を知らない若い世代は映画を通じて時代の雰囲気や勢いに触れたいという好奇心が強いでしょう。
  戦争で焼け野原からスタートしたのだから、「何も失うものはない」と、いい意味での開き直りもあったでしょう。土光敏夫さんについては以前も触れましたが、どん底の状態に身を置いていれば何も恐れるものはないのです。
  残念ながら、このままいくと日本は、米国に騙され、戦後70年近くにわたって積み上げてきたもののほとんどすべて失うことになってしまうでしょう。先の大戦で、東京、大阪をはじめ大都市が徹底的に空襲を受け、広島、長崎が原爆を投下されたように、国家の存亡にかかわるようなダメージを受けることになるでしょう。
  日本人の長年の労働の結晶である各種資産が米国によって搾取されたり、あるいは米国債のデフォルトによって無に帰すわけですから、その衝撃は図りしれないものになることは必至です。日本は対外的に世界一の債権国で金持ちだと自他ともに認められ、それが信用の基盤になり、経済活動をしたり、諸外国と比べて手厚い医療や福祉を享受してきたのですが、突然、衣服をはがされて、寒空の下に放り出されるような状態になるでしょう。
  欧州で現在進行中の金融危機がやがて米国に波及し、世界帝国の国家破綻という、前代未聞の事態に陥ると、経済的なパニックはおそらく、2~3年くらい続くのではないでしょうか。そして、終戦直後がそうであったように、価値観がひっくり返って、多くの人が虚脱状態、無気力状態に陥ることでしょう。
  ただ、これは最悪の事態を回避するとか、ソフトランディングとか、努力で何とかなるレベルではなく、経済の法則に従って、台風が来たら暴風雨に見舞われるのと同様、自然現象のように一気に訪れることでしょう。自然に起きることだから、あらがうことはできません。だから嵐が過ぎ去るのを身を隠して待つしかないのです。
  だから私たちのできることは、嵐が過ぎ去った後の時代を思い描いて、準備しておくことですね。世間一般の人は、まだ、米国が崩壊するなんて信じられないし、古い価値観にとらわれているので、なかなかそこまで頭が回らず、もたつく時間が長いでしょうけど、柔軟な発想さえあれば、対応できるはずです。
  危機が人材を輩出し、人を育てると言われるように、ここで国全体が引き締まるのは決して悪い事ではないのではないでしょうか。お隣の韓国は1990年代のアジア金融危機の津波をもろに受け、国家の存亡の危機に立たされた時期もありましたが、今では、依然として国の基盤自体は脆弱ですが、世界に存在感を示しています。
  平和ボケ、豊かさボケしている日本人は、一気に目を覚まさせられることになるでしょうね。日本人はやればできる国民だと思います。ろくに仕事もせずに人の財産を奪うことで一発逆転をもくろみ、経済も人心もすっかり荒廃してしまった米国などとは違うのです。
  米国に必要以上にカネを貢がされ、不当に貧しい生活を強いられた20年間で、ある程度は耐性がついています。経済、社会の構造が整然としていて、スリムかつコンパクトで、効率的にできています。こんな国は世界を見渡してもそうそうあるわけではありません。
  東日本大震災後、他人事のように「絆」とか、気持ちの悪い言葉が横行していますが、これからが日本人の本当の力、資質が試される正念場です。
  昭和30年代とは異なり、世界的に生産力過剰で、単に一生懸命仕事をしただけでは、豊かにはなれない難しい時代ですが、やる気と意欲、アイデアがあれば起業しやすく、活路を見出しやすい時代でもあります。
  実際に金融恐慌が起きてみないと、どういう状況になるか、見当がつきませんが、苦難の後には今までの別の未来が待っている、常に新しい時代をつくるんだという気概は持ちたいものですね。