なまけ者

  私が日常、経済情勢を考える上で、よく参考にしている、台湾出身の実業家、邱永漢さんのホームページで、秀逸な記事を見つけたので紹介させていただきます。

(以下、邱永漢さんのブログより転載)
第4204回
金で金を儲けるタネが盡きたら

人間は楽に生活のできる道を見つけたら
汗水垂らして働くのはやめるようになります。
汗水垂らして靴をつくるより、
既にできあがった靴を右から左へ動かすだけで、
もっと楽に暮らせることがわかったら、
汗水垂らす仕事は他人に押しつけることになります。

でもそれがやれるためには
そうしたことのできる条件が揃っていなければなりません。
幸運なことにアメリカの経済力が世界中の信任を受けて、
ドルが世界通貨として通用するようになったので、
あれこれ理由をつけて政府が先頭に立って
ドルを増刷するようになりました。
そのドルがめぐりめぐって気がついて見たら、
靴をつくっている中国の靴メーカーのオーナーの手にも
渡っているのです。

もしこれらの日用品メーカーの手に渡ったドルを
一せいに金とか不動産にして返してくれと言われたら、
アメリカは立ち所に倒産してしまいます。
それがそうならないですんでいるのは、
アメリカのお金でお金を儲ける魔術師たちが
「ドルを持っていらっしゃい。
そうしたら、もっとふやしてあげましょう」
と世界中のドルを集めて理財に励んでいるからです。

お金でお金を儲ける空間はもちろんアメリカにもあるし、
世界中を見渡せばまだまだたくさんあります。
財産をたくさん持っているのに
ケチケチして配当に廻さない会社だとか、
後を継いだ経営者が無能なために、首のすげかえをすれば、
ちゃんとお金儲けのできる会社だとか、
うまくそういう会社を探がし出して建て直しをすれば
M&Aに成功してお金がお金を生む商売が成り立ちます。
でもそうしたタネがつきて、
不動産を買う能力のない人に利息は後払いにして
高い不動産を売りつけるようになると、
お金でお金を儲けるビジネスもそうそろ種がつきたぞ――
ということになります。
リーマン・ショックが起って
アメリカの経済がなかなか元に戻れないのは
アメリカのビジネスも
いよいよ種が盡きたぞということではないでしょうか。
(転載終わり)

  私は普段から、金融ばくちと不動産ころがしで成り立っている米国のビジネスモデルは終わりだと強調していますが、この邱永漢さんの記事はまさに「わが意を得たり」という感じですね。
  もちろん、米国企業には、日本企業など足元にも及ばない、すぐれたビジネスモデル、技術を持った企業も数多く存在します。
  ただ、そうした企業も、さすがに3億人の人口を食わせていく力はないですね。大半の米国人は、リーマン・ショック後、まっとうな仕事もせずに、根無し草のように漂っているだけです。
  なぜ、1990年代終盤から2000年代半ばにかけて、米国の金融機関が猛威をふるったのか? 要は不毛なカネでカネを生むビジネスにまい進していただけの話です。
  何かの調査で、「今の米国は間違った方向に向かっている」と回答した米国人が7~8割に達するとのこと。詳細な内容は分からないので、安易なことは言えませんが、遅きに失したとはいえ、ようやく自分たちがやばい状況に置かれていることに気付いたということでしょう。最近の「バイ・アメリカン運動」みたいなものも、そうした動きと連動しているものと思われます。
  でも、米国人はがさつですからね。真の意味での国際競争力は低いでしょう。グーグルとかフェイスブックとかアマゾンとか、大きな枠組みで展開する分野では、政治力や軍事力も背景にあるので、圧倒的に強いですが、細かい気配りや改良はアジア人に比べると、はるかに劣っていますから、長続きはしないでしょうね。一時的に優位に立っても、時間がたつにつれて、アジア勢に逆転されるであろうことは目に見えています。
  そういう劣勢をはね返すために、金融という力を使って、世界を威圧してきたわけですが、所詮、虚業にすぎないわけで、見事にめっきがはがれ落ちてしまいました。
  一部の狡猾な人たちが支配者層を形成し、頭の弱い人たちを支配するという構図が露骨な米国ですが、狡猾なだけでは、生き残ってはいけないということでしょう。世の中、馬鹿な奴が結果的に勝っているというケースはよくあります。
  狡猾な人たちは本当に賢いのかという本質的な疑問もありますね。彼らは寄生虫にすぎないわけですが、それを自覚していないがために、宿主を死なせてしまって、共倒れするという。“馬鹿の壁”を越えられなかったようです。