ラーメン道 キング・オブ・つけ麺 東京駅編1

  ゴールデンウイークに入りました。新緑が鮮やかで本格的に生気がみなぎる季節です。金融市場は混とんとし、マイナスオーラが全開ですが、外に出ていい気をもらいましょう。
  さて、まだまだつけ麺スペシャル。味覚に対する記憶が鮮明なうちに、つけ麺について徹底的に追究したいという思いが強くなり、チャレンジを続行しました。つけ麺と言えば、避けて通れないのが、東京駅八重洲口地下の「東京ラーメンストリート」にある「六厘舎 TOKYO」でしょう。




  つけ麺店はあちこちに増えていますが、六厘舎はつけ麺のテレビ、雑誌などのメディアが代表的なお店を紹介する際、ほぼ100%出てくるほどの有名店です。つけ麺に関心を持った以上、知らん顔はできるはずもありません。
  ラーメンストリートには、何度か足を運んだことがあり、六厘舎の盛況ぶりは知ってはいましたが、当時はつけ麺に関心がなく、スルーしていました。ストリートにある、お店も正直、私にとってはあまり興味を引く対象ではなく、北海道や東京・九段から出店した某店は、ラーメンを食べたことがありますが、メディアの評価ほど、魅力があるとは思えません。実際、最近は店の前に通ると、時間帯によっては閑古鳥が鳴いている状況もみられ、だから、当初は、六厘舎もその程度のものだと思っていました。


  六厘舎はもともと大崎で店を構えていたのですが、口コミで徐々に人気が広がり、長い行列が近所の人の迷惑になるとのことで昨年8月に大崎での営業をやめ、現在では、ごくたまに大崎で不定期で店を開いてはいるようですが、基本的にはラーメンストリート一本勝負のようです。
  いつも店の前を通るたびに人だかりができているのは知っており、行列覚悟でした。「平日だしお昼時は外して2時前くらいに行けば、それほど混んでいないだろう」「その前に八重洲ブックセンターでも寄るか」などと考えていたら、甘かった。1時半すぎでしたが、長い行列ができていました。


  東京駅の集客力はやはりずば抜けています。六厘舎の大崎の本店は12席。昨年開店した東京駅の店は26席とスペースは倍増したのに、次々と行列の最後尾に人がつく盛況ぶりです。その一方で、周囲のお店はお昼時が過ぎて閑散としているので、その辺、地の利はいいとはいえシビアですね。
  普段なら、わざわざ長い行列に並んでまでラーメンを食べようなどとは思いませんが、この日は「勝負する」と決めていたので、素直に待つことにしました。場所柄、出張途中のビジネスマン風の人が多く、“観光名所”となっていることもあり、年配の人のグループや、若い女性の姿も目立ちました。並んでもせいぜい20~30分くらいだろうと高をくくっていたのですが、50分近く待つことになりました。
  それなりの覚悟はしていたので、行列のお供に本を持参。東北楽天ゴールデンイーグルスの野村克也氏の「プロ野球重大事件-誰も知らない“あの真相”」(角川oneテーマ21、724円)で、買ってから積ん読状態だったのを、これを機に読んでしまうことにしました。
  題名からして生々しいのですが、昨年の巨人の清武英利ゼネラルマネージャーの“乱”や中日の落合博満監督の解任など、最近の話題を野村氏が独自の視点で斬るもので、非常に興味深いものでした。
  内容のほとんどは、戦後の野球史や、野村氏の経験から培った野球理論の焼き直しなのですが、野球に対する情熱、日本の野球界を守りたいという思いにあふれていて、シンパとしては思わず目頭が熱くなりました。周囲の人は全く持って理解不能でしょうけど(苦笑)。


  少しずつ前進し、ようやく店内に入ると、「お待ちしておりました」という掛け声で出迎えられます。商売口上なのですが、長い待ち時間の後だけに悪い気はしません。
  席に着くと、カウンターから厨房が見えましたが、さすがに人気店だけあって、10人近いスタッフが調理と洗い場に分かれ、ひっきりなしの注文に対応していました。


  味玉つけ麺の大盛(950円+100円)を選びました。私が入店した時は、ちょうど客が入れ替わるタイミングだったので、時間がかかるかなと思いましたが、5分もたたないうちに、つけ麺が出てきたので、ちょっと驚きました。
  目を引くのが、つけ汁のトッピングの海苔の上にのった魚粉ですね。こういうスタイルのつけ麺は初めてなので、ちょっと胸が高鳴ります。
  まずはレンゲの先でちょっとつけ汁をすくって軽く一口。味覚が一気に覚醒され、なぜ人気なのかよく分かりました。今、はやりの豚骨と魚介を組み合わせたスープなのですが、洗練されていてインパクトのある味です。他店より明らかに飛び抜けています。コンセプトは「ガサツで荒々しく男らしいつけ麺」とのことですが、なんのなんの。とても繊細です。
  麺は浅草・開花楼製とのことですが、つけ汁との相性が非常にいいです。これまでタピオカ粉が入った麺を使っているお店をいくつか訪れましたが、六厘舎は小麦粉一本勝負。微妙な縮れ具合がつけ汁にうまくからみます。
  トッピングはナルト、刻みネギ、チャーシュー、シナチクとオーソドックスな東京ラーメンスタイルですが、つけ汁の味付けとよく調和していました。魚粉は正直、初めてで食べ方が良くわかりませんでしたが、少しずつつけ汁に溶いていくと、味が微妙に変化し、最後まで食べ飽きない趣向となっていました。
  東京でつけ麺というと、真っ先に六厘舎が挙げられる理由が、よく理解できました。この店を差し置いてほかはありえないでしょう。豚骨魚介はスタンダードになりつつありますが、六厘舎の味は、他店と食べ比べると、明らかに違います。伝統的な醤油味の東京ラーメンが好きな人にも受け入れられやすいのではないでしょうか。つけ麺に関心のある人には絶対にこのお店をお勧めします。


  東京を離れて地方に行くと、それぞれ自然に恵まれ、そこで採れる海の幸、山の幸を堪能でき、そこでしか味わえない体験ができますが、ちょっと手の込んだものについては明らかに東京に軍配が上がりますね。多くの店、料理人が切磋琢磨し、技を競い合うので、やはりレベルが高いです。
  私の評価では、ラーメンでは麺屋武蔵(新宿)が現在のところ、東京ラーメンの系譜を受け継いで、頭一つリードしていると思いますが、つけ麺では六厘舎ですね。ラーメン、つけ麺でいいお店を紹介してくれと言われたら、この2点を真っ先に挙げるでしょう。
  もし納得してもらえなければ、そもそも東京ラーメン、東京で主流のつけ麺にはご縁がない、あるいは体質、味覚に合わないということでしょう。
  「神の舌」と持つと言われる石神秀幸さんとか、ラーメン官僚氏と比べると、私など市井のラーメン好きの一人にすぎませんし、あまり細かいことを吟味するよりも、店の雰囲気とか、そのお店と出会ったストーリー性なんかも大切にします。ただ、私が信頼する漢方医からは、「味覚は鋭い」とお墨付きをもらっており、それなりに選択眼はあると自負しています。
  六厘舎は、素直に「すごいな」と思える、数少ないお店だと思いますし、現在のつけ麺界で間違いなく頂点に君臨するにふさわしいと考えます。まさに「キング・オブ・つけ麺」です。興味のある方、地方から上京する方は、おいしいと思うかどうかは別にして、観光スポットでもあるし、話のネタにもなるので、お試しの価値は十分あると思います。