風見鶏

  世の中で一番、言っている事が常にころころ変わるのは間違いなく、金融市場にかかわっている人たちでしょう。それは普段、安全地帯から上から目線で、偉そうなことを言っている私のような人間も同様です。値動きに合わせて行動をたださないといけないので、相場が軟調あるいは動きがにぶいときは不満たらたらだし、堅調だったり動きがよければ、上機嫌という、まさに風見鶏、気分屋、こうもりですね。
  個人レベルなら、「まあ勝手にやってなさいよ」程度で済むのですが、それなりに名の通った金融機関とかシンクタンクなんかも、その辺の個人投資家と同じようなことを言ったり、やったりしているのですから、世話はありません。
  特に相場の転換点での右往左往ぶりは目を覆うばかりで、安値圏では、まさにVIX指数マックスで「底割れか」みたいな不安感をやたらとあおるマーケットコメントが目立ちますし、逆に高値圏ではバラ色一色ですね。そしてそこから相場の反転が始まるのですが、今までのことがなかったかのように、しれっと、真逆のコメントが出てくるわけです。それは人間の弱さなので、弱音を吐いたり、根拠もない自信をふりまく人を攻めても仕方がないです。
  「信は万物の基をなす」とか「信なくば立たず」と言われるように、信念とか大局観みたいなのは、大切だと思いますし、自分自身も信じる方向性はあるわけですが、世の中なかなか思い通りにいくものではないし、そもそも自分の考えていることが間違っていることさえある。
  先物取引、ブログを再開して、6月で1周年になるわけですが、これまで振り返ってみて、自分でも言っていることが揺れているなと感じる部分は少なからずあって、みっともないし、恥ずかしいことこの上ないです。
  2012年は早いもので3カ月が過ぎました。第1クオーターが終了したということで、私自身の言動を総括しておく必要があると思いますが、年初の「今年はどん底に落ちる」という悲観的な予想とは裏腹に、金融市場は至って堅調に推移しています。これは残念ですが、(現時点では)予想が外れているということを率直に認めないといけません。
  特に、私は欧州問題が各国の国債償還、借り換えが集中する3月にどうにも行き詰ってしまい、そこから大崩れするのかと予想していましたが、2月14日バレンタインデーを境に、相場の様相は一変しました。ずっとこの間の発言をご覧になっておられる方は、お分かりだと思いますが、暴落に対して身構えていたのですが、肩透かしを食らい。慌ててロングに転じたというお粗末さでした。
  大局的な動きとして、いずれ欧米が没落するのに合わせ、金融市場も危機的な状況に陥るという見立て自体は、何ら変わっていません。現在の状況は最後の悪あがきで、絶好のショートポイントに向かって上昇しているんだと思っています。
  ただ、目先について、リーマン・ショック前から続く、下落トレンドにいったん終止符が打たれ、今までの相場の様相とは明らかに変わっていることに注意しなければなりません。5日線、25日線、75日線という身近なレンジの移動平均線をクリアし、さらに200日線、52週線を確実に抜けようかという局面です。これは実に4年ぶり、5年ぶりのことなのです。
  これだけ長い時間軸で続いてきたトレンドがひっくり返されると、通常は、最低でも半年以上は相場が反転し続けると考えるのが自然ですね。2~3年くらい続くかもしれません。だから、2008年秋以降、今年1月まで続いてきた相場の地合いを基にした、相場観は改める必要があります。
  基本的には、欧米の金融、財政事情は何一つ改善しておらず、金融緩和で見せかけの好転を演出しているだけだと私は思っているので、いつ、相場の状況が急変してもおかしくはなく、常にそのリスクは頭に置いておかなければならないとは思っています。
  ただ、いつも言っているように、万年最下位のチームだって、ときには3連勝、4連勝くらいはするし、調子のいいときは10連勝ぐらいして、ちょっと上位チームを脅かすことだってあるのです。
  私たちの“仕事”は連勝の波に乗せてもらったり、連敗を見越して売り込むことにあるので、連勝が続くのであれば、その波に乗らない手はありません。そこはしたたかに行動しなければなりません。
  しかし、それにしても、年初の見立てと正反対の状況になったことについては、本当に驚いています。米国が没落することで日本が(否応なく)自立できると期待していたので、それを考えると憂鬱な部分もあるのですが、相場が動けば、それなりに稼げるので、うれしいサプライズでもあります。
  2012年が世界が大転換する“Xデー”とみる向きは多いですし、私自身それに沿って、いろんな計画を立てていたのですが、現状を見る限り、そして金融市場をテクニカル的に分析すると、壊滅的な出来事はちょっと考えづらくなりつつあります。
  第2クオーターで急変すればまた、それはそれで元の見立てに戻らざるを得ないのですが、根拠はテクニカルしかないのですが、「ちょっと考えづらいな」というのが率直な感想です。
  ただ、その反面、ドル・円も、日経先物もいわくありげな上昇のし方をしており、相場が上昇し、堅調を続けるにつけ、負のエネルギーがたまり、キャリーオーバー状態になっているということも指摘しておきます。いずれ、ツケを払うことになるのだと思います。今は、下落過程の正のエネルギーを使っているにすぎないとみることもできますね。
  世の中の変化が激しいので、相場にうまく乗れるのなら、風見鶏でいいのではないかと思います。3か月後、6か月後、一体、何を語っているのか、ちょっと怖いし、ちょっと楽しみでもあります。