ALWAYSより13歳

  昭和30年代の東京の下町を舞台にした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」がシリーズ3作目も、順調な興行成績を上げているようです。
  漫画がベースなので、ストーリーが非常に軽快であることや、しみじみと明るく前向きだった昔を懐かしみたい、一線を退いた団塊の世代を中心とする中高年に受けたこと、高度成長期の熱気を感じたい若い世代の関心を見事につかんだことが成功の要因だと思います。
  キャストも好感を持てますし、ノスタルジーと郷愁に重きを置いた娯楽映画として楽しむのには、まさに最適だし、日々仕事に追われたりストレスにさらされている人が気分転換を図ったり、元気をもらったり、するにはうってつけだと思います。
  ただ、好評の一方で、やはり「昭和30年代はそんなにいい時代だったのか」「過去をやたらと美化するのはどうか」といった批判的な意見や、「いつまでも古き良き時代の思い出に浸っていては前に進まない」など辛口な声も聞かれるようになりました。ヒット作の宿命でしょうね。
  私も、単純な娯楽としてこのシリーズを楽しませてもらう一方で、やはり、同じような批判的な視点を持たずにはいられないですね。NHKのドキュメンタリー「プロジェクトX」についても同様の評価です。
  ALWAYSもプロジェクトXも、全体的に感じるのは、情緒的な部分を前面に押し出し過ぎているのではないかということです。視聴者の感情に訴えかけるのに重点が置かれ過ぎていて、成功の要因は本当のところどうだったのか? 今でもこのサクセスストーリーは通用するのか? 新しい勝ちパターンにつながるのか? といったところにはあまりつながらないような気がします。
  もちろん、見る人が見れば、いろいろなヒントやノウハウの宝庫なのでしょうが、どうしても一般の視聴者には、お涙ちょうだい、浪花節の部分が強く入り込んでしまいます。そうしないと、あまり入場料収入、視聴率を稼げないという事情もあるとは思いますが、客観的、科学的、論理的に物事を把握し、整理できないという日本人の欠点が出ているような気がします。
  日本が高度成長を遂げることができたのは、もちろん日本人の勤勉さ好奇心の強さ、細かい心遣い、仲間同士の連帯など、いろいろとな要因が挙げられると思います。
  ただ、辛口な視点で指摘すると、朝鮮戦争、ベトナム戦争と、米国が主導した戦争経済で大きな恩恵を受けた部分は大きいし、そもそも戦争による空襲で廃墟からの出発で、内需のパワーが強かったこと、人口構成がピラミッド型で人口ボーナスがあったことなど、恵まれた条件があったことも忘れてはなりません。
  それに、このブログでは何度も言及していますが、1970年代ぐらいまでは、欧米は人種差別意識が強く、日本人にハイテク技術は習得できないと思っていたので、特許や技術を使い放題で、市場も開かれていたという事情もあります。現在のようにグローバル化が進んでおらず、韓国、台湾、そして中国といったライバルも存在しませんでしたしね。
  なにより、時代の流れが遅く、ブラウン管テレビやVTRを何十年も製造して、利益を得てきたわけです。過剰生産による過当競争や価格下落の問題もありませんでした。日本の経済的な成功の要因は、地力、底力による部分を決して否定はしませんし、失われた20年を経てもインフラや治安の良さ、丁寧なサービスなど総合的に世界で一番豊かな国だと誇っていいと思いますが、ここまでたどりついた背景には、運に恵まれた部分も相当あります。このことを忘れてはいけません。
  グローバル競争がますます激しくなる中、いまだに日本らしい勝ちパターンを見いだせないというのが一番厳しいですね。もちろん韓国、台湾、中国が製造業で躍進し、欧米で製造業が復権しつつある陰には日本の工作機械や品質管理のノウハウが貢献している部分は大きく、これはもっと評価すべきだとは思います。
  それに欧米や中国型のスピードや結果だけを重視するビジネススタイルが行き詰まりつつあり、日本のように時間をかけても丁寧に信頼を築き上げるやり方に注目が集まっていることも事実ですが、もう少し全体的に意思決定や行動に躍動感がほしいですね。そうしないと、目ざとい連中がうようよしているわけで、いいところはあっという間に盗まれてしまうでしょう。
  テレビ朝日の金曜日深夜のドラマ「13歳のハローワーク」は面白いですね。日本が経済大国の地位に上り詰めたバブル期と現在を行き来する主人公(TOKIOの松岡昌宏さん)を通じて、バブル時代にあって、今の日本にはないもの、あるいはその逆をうまく見せています。
  バブル期は、何のキャリアも社会経験もない大学生がちやほやされ、求人難から大企業は内定を乱発した時代でした。その当時もいわれていたことですが、明らかに異常でしたね。本当にものの見事にバブルは弾けたわけです。
  で、当時、楽に就職できた人たちは今でも幸せかというと、必ずしもそうではありません。ジャパンマネーを背景に世界で猛威を振るった日本の銀行は、米国に徹底的に叩きのめされ、搾取され、去勢された猫のようになってしまいましたし、CAが「スッチー」と呼ばれた時代、あこがれの職業でしたが、ナショナル・フラッグが倒産し、契約社員としてしか採用されず、3K職場になってしまいました。
  製造業もリーマン・ショック前までは勢いが残っていましたが、テレビは高性能になりましたが、1インチ=1000円の時代に突入し、売れば売るほど赤字が発生し、半導体はエルピーダがついに陥落。自動車も5年先、10年先は電機に続くことになるでしょう。
  主人公は35歳の警察官で、おそらく地方公務員としての採用で、キャリア採用を目指して、バブル時代、中学生だった自分に勉強させて、国家公務員を目指すよう指南するわけですが、当時も今も浮き沈みが少ない分、安定しているのは公務員ですよね。
  若者が保守的で、内向き志向なのがよく分かります。バブル時代を体験していなくても、これまでの歴史や経緯をよく見ているからこそ、過剰なリスクをとっても得られるものは少ないと、見抜いているわけです。決してバカではないし、悲観すべきものでもありません。
  バブルからこれまでの20年を振り返って、あまり楽しいものでもないですが、どこで失敗したのか、それを何につなげられるのか? 変わらないもの、変わるべきものは何か? などこのドラマは考えさせてくれます。もちろん、これだってALWAYS同様、娯楽番組なので、よく考えて見ないと、何のヒントも得られないのですが、どちらかと言えば、見る価値は大きいと思います。