最近のニュースで目を疑ったのは、シャープが携帯電子書籍端末「ガラパゴス」の販売を終了するとの報道です。大手メーカーが社運を賭けて、大々的に売り出したものが、1年もたたないうちにあっけなく事業撤退に追い込まれるという、ショッキングなニュースでした。
日本の家電メーカーは、良質なマーケットに恵まれ、日本人のライフスタイルや嗜好に合った、高品質、高機能の製品を送り出していますが、海外マーケットでは消費者がそれについていけず、ニーズにマッチしないことから、孤立した環境で独自の生態系が守られ続けている南海の孤島になぞらえ「ガラパゴス」と表現されます。
シャープは、米アップルの「iPad」や、米アマゾンの「キンドル」を意識したネーミングで、日本市場向けの新しいタイプの端末を送り出したわけですが、市場からあまり認知されず、鳴かず飛ばずのまま、販売終了に追い込まれた形です。
最近は、どの企業も国内マーケットだけでは、ビジネスを維持していけないことから、グローバル規模でのセールスを積極展開しています。代表格の自動車、電機などメーカーだけでなく、衣料品、流通、サービスなど幅広い企業がもはや海外展開なくしては、経営戦略を語れない状況になっています。
とはいえ、海外と言っても、「グローバル」という単一の市場があるわけでなく、生活様式や習慣、好みなど、地域によって異なり、きめ細かいニーズに合った商品を投入しなければ見向きもされません。企業にとってグローバリゼーションとは、むしろローカルに徹することを意味します。
シャープがガラパゴスをあきらめるということは、日本企業が母体となるマーケットからさえも受け入れられないという深刻な事態なのです。ニーズに合った商品をいいタイミングで売り出せず、ライバルの後塵を拝するというのは最近の日本企業の典型的な負けパターンですね。
もちろん、ヒット作の陰には試行錯誤があり、短命に終わった駄作もたくさんあり、この商品一つを取り上げて、大げさに議論するのは行き過ぎなのかもしれません。
ただ、米国では電子書籍端末は今や一つのマーケットとして確立しています。日本ではパソコンが普及した現在でも、紙の書物や新聞、書類、資料の方が好まれ、通勤、通学、買い物途中などに書店に足を運べる環境があるケースが一般的なので、書籍や新聞をインターネットでダウンロードして購読するという習慣はまだ根づいていませんが、部屋に余計なものを置きたくないというニーズや、音楽や映像と同様、本もダウンロードで簡単に入手したいという人も開拓すれば増えるはずで、やはりあっけなく撤退してしまったのは、日本メーカーの基礎体力が落ちていることをうかがわせます。
シャープといえば、電卓にはじまり、かつては携帯端末「ザウルス」、ビデオカメラ「ビューカム」、そして最近では大ヒット液晶テレビシリーズ「アクオス」と、液晶を柱に数々のハイテク商品を生み出し、存在感を示してきました。今回のガラパゴスもその延長線で打ち出された商品だと思いますが、消費者の心をつかめなかったということですね。
同じような状況は、日本の他の電機メーカーにも言えます。以前と比べるととんがった商品や、いいなと思える商品が少なくなり、特にAV機器など、家電に対するわくわく感がかなり減りました。ソニーあたりは経営陣に米国人が入るようになってからその傾向が顕著で、迷走が続きます。自動車も同様ですかね。ミニバンとかセダンとか保守的なものばかりで、ローン組んででも今すぐほしいというような車は皆無ですね。
世界的に今、一番ホットな分野は、スマートフォンやタブレット型のパソコンなど、IT機器ですね。ガラパゴスもその分野に入っているのですが、投入時期といい、スペックといい、中途半端感は否めなかった。アップルはリーマン・ショック前から「iPhone」を投入して市場を席巻し、iPadもタブレットの先駆けとなりました。それをパクったのが韓国サムスン電子で、そのスピード感は鮮やかだった。ドイツの裁判所でアップルともめているようですが、完全にオリジナルの商品なんてそうそうあるわけではありません。
それを言い出せば、戦後、日本のメーカーはすべて欧米のパクりだったわけで、パナソニックの創業者、松下幸之助さんは、本質を鋭く見抜き、その方向では天才的な才能を発揮したわけです。「マネした」さんでよかったのです。
スマホにしろタブレットにしろ、ハイテク分野と言われますが、構造としては極めてシンプルです。要は液晶パネルが特徴的な小型のパソコンですよね。このような分野では、日本の技術力は発揮できず、コスト的にも合わない面はあるでしょう。完全にハードよりもソフトが重視される時代になっており、どんなに技術の粋を集めたハードを使っても安く買いたたかれてしまいます。
ならば、日本人が得意な分野で勝負すればいいわけなのですが、次の一手がなかなか見えませんね。韓国、台湾、さらには中国勢との不毛な戦いに、ずるずると引きずり込まれ続けています。
日本人のサービス精神、きめ細かな心遣いがほかとは違った魅力を放っていたのですが、最近の日本メーカーからはかなり失われてしまいました。もう一度、日本人らしい、ものづくりとは何かを考えるべきでしょうね。日本市場からさえ見放されるようでは話になりません。消費者が何をほしがっているのか貪欲に追及し、無理難題にも挑むことこそ真骨頂だと思います。ぜひ捲土重来を期待したいですね。