今、欧州を起きていることを見ると、日本が1990年代に経験した「マネー敗戦」の欧州版でしょうか。日本の場合は、経済では日本に勝てないと考えた米国が金融を使って支配力を強めようとして、金融問題を人工的に引き起こしたわけですが、欧州の場合は、米国と一緒に2000年代のバブルに踊ったので、自業自得の面もあります。
2009年秋のドバイ・ショック、2010年のギリシャ・ショック(事実を隠ぺいするためにフラッシュ・クラッシュと称している)、そして最近のギリシャをはじめ、南欧をめぐる財政問題は、米国が延命するために、欧州を蹴落とそうとしている動きと考えていいでしょう。
経済が壊滅状態で、財政も、もはや再建不可能に陥っており、欧州よりひどい状態にある米国ですが、欧州危機をあおることで、世界の投資資金の逃避先として、ドルや米国債へと誘導し、結果的に破綻を回避するという構図がうっすらと浮かび上がります。
欧州は米国によって捨て石にされているわけですが、トラブルメーカーとしての側面もある。今、財政問題がクローズアップされている諸国では、リーマン・ショック前までは、不動産バブルに沸いていたのです。そして欧州の大手金融機関は、こぞって怪しげなブームに乗り、競うように貸し出しを拡大した。しかも、米国のサブプライム問題にも米国の金融機関以上にからんでおり、強欲さが今日の事態を招いた側面も否定できません。
そもそも、欧州は偉そうにいばりくさっていますが、古い歴史や文化が足かせになって、スクラップ・アンド・ビルドができず、ダイナミックな発展は今後期待できない地域です。一連の金融危機によってさらに老衰が進むことでしょう。
内陸部に新しい都市が次々とできていく中国や、これまでの歴史的経緯から考えると、信じられないような展開を見せているアフリカ、中南米のような勢いのよい発展は欧州には見込めません。日本だってまだ再開発の余地はたくさんありますが、年老いた国が集まった欧州では、明確な成長戦略を打ち出せないため、金融機関も、焼き畑農業のように局地的なバブルに乗るしかないのです。
しかも、欧州の人たちも、米国人同様、まじめに働いて稼ぐという倫理観が相当薄れています。職人とか熟練が必要な分野は、アジアから来た出稼ぎ労働者にとってかわられ、元々不器用でセンスが悪い欧州人は能力、実力面からも駆逐されようとしています。
ドイツなんかは、欧米では珍しく製造業が残っていますが、同じ土俵で競争すれば、日本企業があっけなく勝ってしまうでしょう。モノの作り込まれ方や微妙なセンスが、日本製品とレベルが違いすぎます。欧州だけを囲い込んで閉鎖的な市場で勝ち残っているにすぎません。
フォルクスワーゲンがスズキを買収するみたいな話が出ていますが、資本の論理で動いているだけのことで、日産がルノーに救済されたのと同様。本気になって同じ土俵で技術力、商品力で勝負すれば、欧州なんてあっけなく世界市場から駆逐されることでしょう。
そうした実体経済以前に、そもそもユーロなんて、米ドル同様、紙切れを刷ることで、一部の金持ちが偽りの利益をむさぼるシステムであり、そんな通貨が国際社会で通用し、世界をリードするなんて、とんでもない話だったのです。金や実物資産の裏打ちのない紙幣など、ただの紙屑にすぎない。新興国が経済力をつけてくると、いずれ価値が剥落する性質のものです。
ユーロ導入で得をしたのは、一部の金融機関のほか、ドイツですかね。本来ドイツ・マルクは価値が高いので、企業が国外流出するはずだったのですが、同じ通貨になってしまったために、国内産業を保護することにつながった。そしてギリシャやスペイン、イタリアの人たちに借金させてモノを買わせたわけで、今になってギリシャ救済に難色を示すなんて言語道断です。ユーロを守りたいならドイツは責任ある行動をすべきでしょう。もちろん金を返す当てもなくモノを買った人たちはそれなりの代償を払わないとだめですが。
今回の欧州危機は、欧州の弱点や矛盾を露呈させ、そこを巧みに米国が突いたわけで、欧州にとってはまさにマネー敗戦で、欧州各国政府、金融機関は致命傷に近い深い傷を負うことになると思います。
ただ、割と多くの人が予想するようにユーロ解体あるいは、一部加盟国が離脱するのか、といったところは今のところは未知数です。というよりは、日本人が考えているのとは反対に、ユーロ圏は歴史的に結束力があります。米国が傾き、ロシアや中国、その他の新興国が台頭しようとする最中に、わざわざ、ユーロ全体の弱体を図るようなことをあえてするのかは疑問です。逆に結びつきを強めようとすると考える方が自然ではないでしょうか。
ひとまず、当面はユーロの動向に要注意ですが、あくまで問題がいつまで続くのかという問題であって、大本命は米国の国家破綻です。ユーロの問題にある程度見通しが立てば、米国自身の問題が再び注目を集めるでしょう。今はユーロに目が向いていますが、目先をそらさせただけの話であって、米国にとってのモラトリアムにすぎない。
3か月後になるのか、半年後になるのか、あるいは明日か3年後か分かりませんが、米国が財政、金融問題で“炎上”するときが来るでしょう。その時が来るのを迎え撃つ必要があります。