米アップルの創業者で前最高経営責任者のスティーブ・ジョブズ氏が5日に逝去し、世界中に衝撃と悲しみが広がりました。iPhoneは新しいモデルが出るたびに、世界中で購入希望者が殺到。世界に先駆けて発売したタブレット型のiPadも、ライバルから猛追撃を受けながらも、業界のリーディング・スタンダードであり、目が離せない存在です
アップルのすごいところは、芸術性と遊び心でしょうかね。これはジョブズ氏の人柄に負うところが多い。“天才”の称号にふさわしいと思います。
私もiPodユーザーで、ソニーのウォークマンが音質で優れていて、猛烈な勢いで巻き返していると聞き、昨年、ウォークマンを買いましたが、音質は期待したほどではないにしても、まずまずなのですが、それ以外は、ダウンロードのしやすさ、使い勝手、ネットとの接続、拡張性など付加する様々な機能などを考えると、iPodの方がいいなと思いました。
アップルが売っているのは、すべて大型、中型、小型の「パソコン」にすぎないんですよね。同じものは、ソニーも東芝もNECもパナソニックも売っています。アップルの対抗勢力としては、韓国・サムスン電子がいますが、ジョブズ氏の死後もユーザーの期待を裏切らない商品を出し続けるならば、固定ファン層を固め、若者や女性を魅了する、アップルの優位は変わらないでしょう。
サムスンは今は勢いがあっても、細かいものづくりとこだわり、好感度では、東芝、ソニーあたりがそこそこ伸びる可能性もあるし、価格競争ではデルやレノボあたりが忍び寄り、台湾勢も無視できない。そう考えると、孤高の存在のアップルの強みは目を引きます。
何より、アップルは工場を持たないファブレスであるところが強いですね。高品質でそこそこ低価格の台湾の半導体や日本の電子部品、シャープの液晶パネルを買ってきて、組み合わせればいいわけですよ。自前で工場を持ち、日本、台湾勢と半導体、液晶で消耗戦を繰り広げるサムスンはその点、部品の調達面では自前の強みはあるものの、巨額な投資が必要なわけで、経営的には分が悪い。
アップルは別に大したものをつくっているわけではないのですが、ちょっとした工夫やユーザーの心をつかむ機能で、オンリーワンの存在になっています。これは、これからの「モノづくり」を考える上で重要なポイントですね。
日本メーカーは、品質や独自のデザイン性、小型化の技術で、他の追随を許さないですが、製品を出してもほとんど世界に広まりません。日本国内でさえ、アップルやサムスンに圧倒される始末です。ある程度、「いいモノ」を作ることは大切ですが、それだけでは、売れないのです。
多くの人が憧れ、欲しいなと思うモノに仕上げなければならない。ジョブズ氏が創り上げた、アップルのイメージ、芸術性やストーリー性は、日本メーカーの非常に弱いところです。
ソニーあたりは、かなりいい線を行っていたのですが、金融屋が経営に入り込んだ結果、単なる業績至上主義になり、遊び心やブランドイメージといったソニーの良さをことごとくつぶしてしまった。それでも、今でもソニーは世界的に認知されているので、巻き返せるポテンシャルは持っています。
電機業界は新規参入が比較的容易で、勢力図が目まぐるしく変わるので、3年後、5年後、10年後、どういう展開になるかは全く想像がつきません。ただ、アップルがアップルらしさを失わなければ、強いと思います。日本メーカーも見習わなければなりません。
真剣に受け止めるべきなのは、自動車メーカーですかね。自動車は一見、激しい競争をしているように見えますが、研究開発や大きな工場を持てるのは、ごく一部に限られます。何だかんだ言って、少数のメーカーによる寡占状態で、極めて保守的な体質を持っているのです。これは日本だろうが米国だろうが欧州だろうが韓国だろうが変わりません。
ただ、いつまでその状況が続くかは疑問ですね。電気自動車(EV)が世間がもてはやすほど普及するとは思いませんが、それなりに広がる可能性はあります。そうなると、エンジン車やハイブリッド車(HV)と比べて、構造が単純なので、いろんな業種から参入する可能性はあります。もちろん、安全基準などクリアすべき課題はありますが。
そうなると、自動車だって家電を買うような感覚になる可能性は大いにあります。そうなると、自動車界の「アップル」が生まれたっておかしくはない。プラットホームやモーターなど基幹部品はほかのメーカーから調達して、完成品も組み立てを依頼して、イメージとブランドで売る時代が来るかもしれません。
EVだけでなく、エンジン車でも同様ですね。今後、中国の内陸部とか、ユーラシア大陸中央、アフリカ大陸で自動車の需要がますます高まれば、エンジンとか主要部品だけよそで調達して、組み立ては自分たちでやるという、ローカルメーカーがどんどん増える可能性があります。昔は日本だって小メーカーが乱立していたんですよね。関東自動車とかセントラル自動車とかその名残ですよね。プリンス自動車なんかもそう。
今のようにトヨタ自動車がどうとか、日産自動車がこうとかいう、自動車の供給体制は、ひっくり返る可能性があります。
まだ、自動車業界では日本の優位が続いていますが、車づくりを見る限り、全然つまらないですよね。個性がなさすぎです。特にホンダの衰退が激しい。今のホンダ車にはワクワクする感じが全くありません。
だから、ファッション性や楽しさを打ち出す、新興のメーカーが出てくると面白いですよね。ただのパソコンを大きな付加価値をつけて売るアップルと同じような感覚で、車が売り出されたら、若い人ももう少し、車に関心を持つのではないでしょうか。
マツダあたりは、面白い存在なのですが、「RX-8」の生産をやめちゃうんですよね。確かに今はあまり売れていない車ですが、どう考えても時代に逆行しています。別にロータリー・エンジンにこだわる必要もないと思います。走りを楽しむというコンセプトは正しいと思うし、ほかにはないスポーツカーを出したのも評価できます。どうしたら人をひきつける車を造れるか、低燃費競争にこだわりすぎて、忘れられた視点ではないでしょうか。
ジョブズ氏が教えてくれたのは、単なる高品質、大量生産だけではなく、消費者マインドをくすぐる、ちょっとしたこだわりを加えることで、商品の魅力を高める、新しいモノづくりの形ではないでしょうか。