歴史のダイナミズム

  水が高いところから低いところに流れるように、歴史も必然があり、大きな方向に動きます。台風で増水した川に流されれば、どんなに泳ぎが達者な人でも、あっけなく濁流にのみ込まれてしまうように、歴史の大きな流れにあらがうのは、自殺行為にほかなりません。よほどの覚悟や世を捨てるくらいの気概がない限りは、流れを読み、それに沿って行動するのが賢明です。
  今私たちが目の当たりにしているのは歴史の現実だということです。海洋に覇権を確立することで500年余にわたって、世界でのさばってきた欧米が凋落し、いよいよ主役が交代しようという、めったに目撃することのできない瞬間に立ち会っているのです。
  その事実を無視して、目先の利益にのみ目を奪われて、ロングだショートだ、やれテクニカルだ、雇用統計だ、やっているのは実に愚かしいことです。
  実際には日々の生活に追われ、なかなか達観できず、細かい事にこだわって生きていかざるを得ない部分も大きいのですが、時々は一歩引いた視点で、立場から物事を考え、リセットし直す必要があります。
  ただ、難しいのは、世の中いろいろと情報があふれていますが、なかなか真実を見抜くのは難しいということです。これはトレードをやっていて、感覚として理解できるのではないでしょうか。クズ情報やネガティブな情報であっても、それに反応して意味もなく、相場は上昇します。そうなると何を信じてトレードをしていいのか見失ってしまいますね。
  だから、トレードの世界では、ファンダメンタルやテクニカルを超えた、さらに別の情報(暗号)を基にポジションを取る以外に対処のしようがありません。ドル、ユーロの価値からして、ファンダメンタルは十分機能していますが、株価や債券価格はどう考えてもファンダメンタルやテクニカルでは説明がつかないですね。日々の売買動向や、細かくチャートを読み込む以外に方法はありません。
  はっきり言って、こんな相場は普通の投資家では太刀打ちできないし、歴史の流れとも乖離しているので、まともに相手にしないのが無難です。素直に見通しが立てられないことに対して、無理に執着するのは、まさに流れに逆らうのと同じだからです。
  今の日本の政治、経済の動きもそうですね。大きな歴史の流れが見えていないから、当事者たちは、もっともらしいことをしているつもりでも、濁流の中で必死にもがいているだけのことで、滑稽あるいはみじめな悪あがきにしか見えません。
  特に、国家破綻へ向かってまっしぐらの米国に支配され、言いなりにしか動けなくなっているので、強制的に歴史の流れに逆らい、抱きつき心中をするような格好になっています。
  こういう時代だからこそ、政治も経済も、大局観を持ったリーダーが必要なのですが、残念ながらそろいもそろって小物ぞろいで、どうやら日本は濁流の渦に巻き込まれて、溺死する運命にあるようです。
  私たち庶民は、国内の政治、経済の動きや、それらに寄生してガセ情報を流すマスコミに惑わされず、可能な限り、正しい認識を身に付け、したたかに生き残っていかなければなりません。
  まず、はっきりさせておかなければならないことは、欧米が没落するということです。これはもはや覆せない厳然たる事実です。昨年のリビアに続いて、イランを攻めて、石油利権を分捕り、一時的には景気が良くなったように“錯覚”するかもしれませんが、砂上の楼閣にすぎないということです。
  欧米の尻馬に乗って、偉そうにしている連中は愚か者であり、真っ先に歴史の濁流にのみ込まれて命を落とす人たちです。為替介入やら普天間飛行場移設問題やらTPPがいかに些末なことか。
  そして、欧米が没落した後にどういう世界になるかということも考えておかなければなりません。やはり「中国が台頭する」ということです。
  相変らず中国嫌いの人が多いし、バブル崩壊や民衆の蜂起など「中国ヤバい」としたり顔で言い立てないと気が済まない人がいるようですが、これは歴史の流れだし、必然です。
  12億の人が豊かさを求めて、必死になって働いているわけです。もちろん環境汚染、食糧、エネルギー、貧富の格差など深刻な問題も抱えています。ただ、日本人が考えているほど中国という国は馬鹿ではない、というか中国のリーダー、エリート層は欧米や日本のことを細かく研究していて、後発者のメリットを存分に享受しています。爪の垢を煎じて飲むべきでしょうね。
  バブルの問題にしたって、故・鄧小平最高実力者の「先富論」に従って粛々と対処するでしょう。金持ちにマンションを高値で買わせて、安くなったところを買いたたいて、貧乏人に入居させればいいわけです。中国には、人口をはるかに超えるマンションが林立する都市がそこかしこにあります。
  農民がそれらのマンションに入れば、香港のような狭い土地に人口が密集する、「都市国家」があちらこちらにできるわけです。私たちのこれまでの常識では考えられない展開が今後、次々と起きるでしょう。だから、安易に中国にレッテルを貼るのはどうかと思います。
  かつての米国ほど、豊かな世界帝国を築けるかどうかは分からないにしても、海岸の河川の河口部に大都市が点々とできるこれまでの発展パターンから、内陸に都市国家がいくつもできる、新しい展望が切り開けるでしょう。人口が密集しているので、効率的な都市経営も可能になることでしょう。だから、しばらくは中国の優位は続くことになるでしょうね。
  欧米ばかり目を向けていると、けち臭い、しけた発想にしかなりませんが、目線を変えると新しい地平が広がるのです。歴史の流れはどちらに味方するでしょうかね。