難局

  一寸先は闇。金融市場をみていると常々実感させられます。いまだにテクニカル云々、しつこく言い立てる人がいますが、もちろんその要素はあるにしても、今までの常識が通用しない難局です。半年、1年前くらいからその傾向が強まっています。
  先日も書きましたけど、金融市場というのは(商品なんかもそうでしょうが)、そのときの情勢に合わせて好材料、悪材料を織り込みながら上下するものです。
  不思議なことに、最近の金融市場は「下落局面」がありません。正確に言うと、下落するにはするのですが、落としどころが見えないのです。だから、「(テクニカル的な)調整」とか「経済の好不況のサイクル」とは別次元の動きで下がるのです。
  要するに、自然な形で値が下がることはなく、厳密に言うと、自然な価格形成メカニズムにまかせると、価値がないことが露呈するので、本当は下げるところまで下げるべきなのに、自然な相場の動きに無理やり逆らっているから、こういうことになるのです。
  具体的な例を考えてみると、何の価値もない荒れ地に1億円の価値を付け、それを下がらないようにするにはどうすればいいか? 土地を取引する人に無理やりにでもお金を与えて、値が下がるのを防ぎ、価値があるかのように振る舞うしかありません。元々価値がないものですから、1億円の値が付いても積極的に買おうという人はおらず、実質的には塩漬けになってしまうのです。
  欧米の国債、通貨、金融資産、不動産が今まさにこの状態です。価値がないことが露見してしまうと、パニック売りになってしまうので、金融緩和でじゃぶじゃぶとお金を印刷して、大手金融機関に投入し、これらを買い支えさせることで、かろうじて延命しています。
  どんなに劣悪な環境であろうとも豊かさを目指していちずに働く中国人をはじめ新興国の人々や、米国の威を借りながらも工業製品で世界を席巻しようとする韓国人、台湾人、円高や不当な要求を受けいじめられながらも高い品質とサービス精神で新しい価値を生み出そうとする日本人と、まともに競争をして、頭が悪く、怠惰な欧米人が勝てるはずがありません。
  すでに30、40年前からその兆候があったのですが、うやむやにしたまま、あるいは日本に国債を買わせたり、円高にしたり、アジアに通貨危機を起こしたり、いろいろと手を尽くして、あの手この手で、欧米が世界の主導権を維持しようとしてきましたが、所詮はインチキであり、たどりついたのが金融ばくちと不動産ころがしでした。
  結局、そんなもので欧米の実体経済が強くなり、競争力が高まり、世界をリードするわけもなく、現在は、金を印刷して投入することで、経済がうまくいっているように粉飾するという、いわば「最終手段」に出ているわけです。
  問題は、最終手段がいつまで続くかということ。こればかりは皆目検討がつきません。昨年秋以来、米国の経済指標などは比較的安定していたのですが、不動産価格の低迷は一貫して続いており、雇用情勢も年初来好転しつつあるとはいえ、リーマン・ショック後の落ち込みをカバーできる水準ではありません。
  あれだけ巨額の金融緩和をした割には、効果は長続きせず、麻薬が切れたら、また麻薬に手を出すという悪循環に陥りつつあります。
  最近の動きを考えると、米国で金融緩和観測が高まると、円高、日本株安が進行、そこで為替介入あるいは追加緩和が入り、円安、株高に触れるというパターンが定着しています。
  政策介入がちらつくので、なかなか、積極的に売りにくく、下がりにくい局面が続きますが、どこかで売り込まれる場面があり、底割れしそうなところで何らかの動きが出てくるというのが今後もあり得るシナリオでしょう。
  一昨年来、断続的に行われている為替介入では、介入効果はだいたい3カ月で(早ければ1、2カ月)で切れるのが一般的です。何ら本質的な部分は変わっていないのですから政策介入の効果もそれと似たような経路をたどるのではないでしょうか。
  前回2月14日の金融緩和発表からすでに3カ月超。そろそろクスリが切れてくるころでしょうね。米国株も異常な高値を維持してきましたが、日本や欧州の金融緩和に支えられており、いつまでも長続きしないでしょう。ドルがもたついているとすぐに売りを浴びせられるところを見ても、米国経済の脆弱性は明らかです。
  欧米の経済が崩壊するのは仕方のないことで、それを支えること自体が自然の流れに逆らうことにほかならず、為替介入や金融緩和は無意味だし、国富を流出させる愚行だと思いますが、米国の指示には逆らえないのがこの国の指導者たちですから、これからも何度となく、応じる羽目になることでしょう。
  欧米を延命させることは、自らの身を痛めつけるに等しく、そういう意味でも難局が続くわけですが、安易にショートに走るわけにもいかず、何らかの介入が入るのを見越してロング、あるいは勇気があれば、伸びきったところでショートくらいしか、今のところ乗り切る方法は見当たりません。それか、静観を決め込むか。
  これが続くと、日本経済も疲弊するので、一日も早い欧米の没落を望みますが、こればかりは欧米がギブアップするまでどうしようもありません。この難局がしばらく続くことを見越して、ほどほどにお付き合いするしかないですね。