先週末の北海道は、最高気温が15度前後と、この時期としては比較的暖かく、旅行に出発する前、何を着ていくのか悩んだのがうそのように、ジャケット1枚を羽織るくらいで快適に過ごせました。
2日目は、お世話になった人と会うため、旭川に向かいますが、その前に私には、ぜひともやっておきたい(食べておきたい)ミッションがありました。「そば」です。
北海道は日本一のそば産地で、道北寄りの幌加内、旭川近郊の江丹別、帯広に近い新得といったところが、全国的に知られています。毎年、お盆を過ぎる頃には新そばが広く出回り、秋には各地でそば祭りが開催されるので、そば好きの私としては、楽しみな季節です。
初日は塩ホルモンと味噌ラーメンと、ダイエットでこの半年ほどですっかり少食になってしまった私にとっては、かなりのヘビー・デューティーで、やや胃がもたれていたのですが、そばはぜひ食べておきたいし、疲れたい胃に、そばというのは、それほど重くなく、ちょうどいい選択でした。今回の旅行は本当にやることなすことがことごとく、うまく行き、ストレスのない旅でした。
ホテルのチェックアウト時間が午前10時で、お目当ての札幌駅南口近くにあるそば店「そば徳」の開店時間は午前11時。ちょうどいい時間があるので、札幌市中心部を散策しました。
秋の北海道は、きりっと冷えた空気に覆われ、寒さの中に凛としたものがあり、心に響くものがあるのですが、やや今年は全国的に気温が高い影響もあってか、力不足でした。れでも、街路樹のイチョウがまぶしい黄色を放ち、大通公園の木々が鮮やかに紅葉し、秋が深まっていることを実感させられます。
札幌と大通を結ぶ、地下道が完成し、初めて通ってみました。上を走る札幌駅前通りの道幅に合わせているのでしょう。非常に広々としていて、こんな大きな地下道を造る必要があるのか? という疑問がないでもなかったですが、冬場、11月下旬から4月初旬まで歩道が雪に覆われ、外出しづらくなる期間は、札幌駅からススキノまで、地下道一本でつながることで、とても便利になったことでしょう。
札幌駅周辺のサラリーマンが、ススキノへ足を伸ばし、飲みに行く機会が増える効果もあるかもしれませんね。
キャリーバッグをごろごろ引っ張りながら、公園や地下街のベンチ、書店で暇をつぶしつつし、いい頃合いを見計らって、そば徳へ。
店内には、かつおだしの香りがほんのりと漂い、常連さんでしょうか? すでに2、3人のお客さんが店内にいて、新聞を読みながら、土曜日午前のリラックスした時間に浸っていました。
このお店でぜひ食べたいのが「鴨せいろ」(950円)です。私は、そばの本場、東京をはじめ、全国各地でかなりそばを食べていますが、鴨せいろで、そば徳よりおいしいお店を知りません。1店だけ、「鶏肉せいろ」でおいしい店を知っていますが、鴨せいろでは断トツにおいしいです。
これだけおいしいのに、あまり知られていないのは、残念ですが、まあ、「私だけが知っている秘密」めいた、面白さもあり、誰も紹介しないので、こっそりとひっそりと今回、記録しておくことにします。
そば徳の鴨せいろは、鴨汁がアツアツの状態で出てきます。つめたいそばを汁につけると、だんだん温度が下がり、ぬるくなってしまうので、熱めにして味わってほしいというお店の配慮です。うれしいではないですか。
そばを汁に漬ける前に、ぜひ鴨汁だけを味わいたいですね。もちろん「そばつゆ」の役割を果たすので、塩辛く味付けがされているのですが、この鴨汁を一口すすると、思わず表情が緩みます。
全体に丸い味なんですよね。ちょっとしょっぱいそばつゆに、鴨の脂の甘さとジューシーな肉汁が加わることで、まろやかになり、味に奥行きがでます。なぜ鶏でなく、鴨を使うのかというのがよく分かります。鶏の脂だと、ややそっけないんですよね。鴨はそれ自体、いい出汁が出るので、そばつゆが全く違うものに変身します。ちょっと焦がした長ネギも、とてもいい組み合わせです。
東京にも江戸前の各店自慢の鴨せいろがたくさんあるのですが、そば徳ほど、心揺さぶられる味を私は知りません。とても、シンプルだと思うのですが、引き付ける味なのです。
北海道はどこでもそうですが、そば自体はおいしいんだけれども、つゆがちょっとね、というお店が多く、やはり江戸前の伝統の味、職人の技が光る、東京のそば店と比べると、物足りなく感じることもあるのですが、そば徳の鴨せいろに関しては、別格だと思います。
最後は、そば湯できっちりと〆て、幸せな気分で、店を出ました。朝方、小雨が降っていて、天気が気になったのですが、秋らしい抜けるような青空が広がりました。北海道に来てよかったなと、あらためてしみじみと実感しつつ、レンタカーで旭川方面に向かいました。(続く)