TBSの日曜夜9時はこのところいいドラマをやりますね。1月から1972年の沖縄返還の際の日米両政府の密約を暴いたスクープが、その後スキャンダルに発展した西山事件がモチーフの「運命の人」が放映されています。
トレーダーなら、このドラマから、日米の力関係や、沖縄返還が東アジア地域における米中の関係にどう影響したか、それぞれの視点で読み解いてみてください。それぐらいのことをやる努力をしなければこれから先、生き残っていくのはおぼつかないと思います。
原作は山崎豊子さんの小説なので、ドラマを見るよりも、小説を読んだ方が情報量が多いし、取材を基にしているので、より事実に近い部分に触れられると思います。
沖縄密約をめぐっては、実際に密約があったのかどうかの情報公開訴訟や、岡田克也副総理が外務大臣だった当時に調査などが行われています。米国側の機密文書が解除され、事実上、「密約はあった」ということになっていますが、日本政府は明確な立場を明らかにしていません。事件の当事者、毎日新聞政治部の西山太吉氏の国家賠償請求訴訟なども起こされていますが、司法の場でこれを裁くのは、高度な政治判断が必要なのでふさわしいとは思えません。
この期に及んで密約があったか、なかったかやっているのは、はっきり言ってどうでもよいことなのですが、ここに官僚主導の弊害というか、大きな病巣があるのです。端的に言うと、米国が日本を支配していて、官僚がそのエージェント(代理人)として機能しているのですが、その事実が明らかになったら困るということです。
一応、建前としては、日米は対等な立場であり、沖縄が本土復帰することで、日本が主権を回復したことをアピールする必要があったわけです。ですが、そんなものはうわべだけの話で、米国としては形としては沖縄を日本に帰したとしても、実質的な主導権を握りたい。
ドラマの中で、西山記者は日米密約の問題をはっきりさせないまま、沖縄返還を行うことは、将来に禍根を残すとして、敢然と当時の佐藤栄作首相や政権中枢に敢然と立ち向かうわけですが、ドラマ(原作)では日本側の当時の対応の不自然さをことさらに強調するだけで、背後にある米国の世界戦略については、なおざりにしたままです。
当時の西山記者の直感は全く正しいですね。日米関係をはっきりさせなかったから、ずるずるとあれから40年たった今も、不自然な関係が続いているのです。米国の言いなりに唯々諾々と従う体制が出来上がり、それがどんどんエスカレートし、野田政権でほぼ完成の域に達したと言っていいでしょう。
ドラマや原作は物足りないというか、はっきり言って不備なのですが、本当はここが肝心なのですよね。米国の債務不履行や、普天間飛行場の移設問題も、このあたりに端を発しているのです。
日米密約があった時期は、ベトナム戦争が泥沼化し、米国が凋落していた時期でもあります。事実上の米国の(1回目の)国家破綻であるニクソンショック、大統領が失脚するウォーターゲート事件へと続きます。また、前後して米国が中国との国交回復を模索し、国交を樹立します。
沖縄返還を“勝ち取った”佐藤栄作首相はノーベル平和賞を受賞するわけですが、受賞の理由は「非核三原則」を打ち出したこと。要は、日本返還後の沖縄には「核はありません」ということを明示した上で、米国が中国と国交を結ぶ道を切り開いたわけです。
もちろん、実際には沖縄には核が存在するのではないかと、かねて取りざたされ、おそらく配備しているだろうと推測されるわけですが、建前が必要だったわけです。
沖縄返還は、米国の世界戦略、アジア情勢を大きく動かすきっかけとなったことになったの間違いなく、日本人はなかなか理解しづらいし、まさに瓢箪から駒ではあるのですが、佐藤元首相のノーベル賞は、世界史的観点からは分からない話ではないのです。もちろん佐藤元首相は米国の圧力や振り付けをされて、動いたにすぎず、運動会の参加賞みたいなものですが。
西山事件、沖縄返還から見えてくるのは、日本のような弱小国家が米国という世界帝国と伍していくには、相当な覚悟が必要であるということです。日本は世界戦略のコマにすぎないという事実を粛々と受け止めた上で、どう立ち回るか、しっかり考えなければなりません。今後、中国に覇権が移ったとしても同様です。
日本政府はふがいないし、リーダーは後退するたびに、どんどん頼りなくなっていますが、批判するのは簡単ですが、帝国に逆らえず、思い切った政策を打ち出せないという事情もあることを、私たちは知っておく必要があるでしょう。
そうした中で、なぜ政治主導とか、地方への大幅な権限移譲が必要なのか、しっかり考えておく必要がありますね。
世の中、出回っている情報は本当にくだらないものばかり、というかくだらないものしかないのですが、そうした中にも、真実が眠っており、ちょっとしたヒントからいろんなことを読み解いていく努力をしなければなりません。漫然と日々過ごしているだけではいけないのです。
あと蛇足ですが、西山事件発覚のきっかけが、社会党のプリンスと言われた横路孝弘代議士(現・衆院議長)と楢崎弥之介代議士が衆院委員会での質問で、漏えいした機密文書のコピーを見せたことだったという事実は重いですね。
横路氏は自分のスタンドプレーで、情報源が特定され、刑事罰を受けるに至ったことをどのように受け止めているのでしょうか。そして、あの時点で沖縄返還をめぐる屈辱的な密約について追及しきれずに、結果として、米国追従を止められず、国益を損なったこと。
そんな人間がのうのうと衆院議長という名誉職に就いているわけです。旧社会党勢力はその後、民主党に合流し、2009年の総選挙で勝ち、晴れて官軍となったわけですが、こういう歴史的な局面で、大失態を犯したという事実は重いし、また、横路氏と緊密な関係にあるのが小沢一郎・民主党元代表であるということも、日本の政治がすっきりしない原因の一つだととらえるのは考えすぎでしょうか。