生きざま

  もし、激動の時代をサバイバルしたいなら、ささやかでも成功したいなら、あるいは(私のように)今のうち苦労して後で楽して暮らしたいなら、朝の連続テレビ小説「カーネーション」は、なかなかお勧めです。
  ストーリーとしては、ファッションデザイナーのコシノ3姉妹の母である小篠綾子さん(ドラマ中では小原糸子)が戦前、戦中、戦後を通じて、当時は世間でまだ広まっていなかった洋服のデザイナー、洋装品店の経営者として、成功していくさまを時代背景や人間ドラマを交えて描いたものです。
  人の成功物語なんて、面白いので娯楽にはなりますが、勉強したところでどうなるものでもありません。特に松下幸之助氏の遺訓を受け継ぎ、「良き経営者」「良き奉公人」として、教育されてきたパナソニックなんて、世界情勢を見誤り、経営判断でミスを重ね、グローバル企業どころか、国内で白物家電を売ってせこせこと稼ぐだけの魅力のない企業になってしまいました。
  成功物語を必死に研究したところで、松下幸之助氏や本田宗一郎氏になれるわけでもありません。それは高校球児がイチロー選手や松井秀喜選手にあこがれて、同じような練習をしても、彼らに追いつけないのと同じことです。
  その人の資質や力量がものを言う部分が大きいし、何より「時代が人物(ヒーロー)をつくる」と言われるように、生きている時代背景が全く異なります。昔通用した成功パターンが今では役に立たないというのは随所で見られます。そこが日本が袋小路に追い込まれている原因でもあります。
  どうしようもない政治状況を憂えて坂本竜馬待望論が常に出てきますが、今の時代に坂本竜馬がいたとして、何をするのか? 活躍できるのか? 人より抜きんでることができるのか? 何より坂本竜馬が巷間言われているほど、日本の歴史に貢献したのか怪しい部分があります。
  カーネーションで注目したいのは、困難にどうやって立ち向かうか、その姿勢ですよね。これに関しても、なかなかマネができるものではないし、マネできるか、あるいは、同じような思考、行動パターンを持っていれば、今とは違う人生を歩んでいたかもしれないし、案外、代わり映えしないのかもしれない。そこは差し引いたとしても、つまずいても、前に進む気持ちを持つことについて考えさせられます。
  ドラマによると、小篠さんは母方が神戸の裕福な家庭で、生まれた家もうだつが上がらないとはいえ呉服屋で、しかも、周りには気持ちの良い人が多く、恵まれた環境にいたようです。だから生まれもって恵まれた環境や資質を持っていたと考えられますが、女性が何かと社会で差別されていたり、和装が一般的だった時代に洋服を売り出すのは困難だったことや、戦争でいろいろと経済が統制されていたことなど、困難を克服するプロセスはなかなか参考になります。
  戦時中の経済統制の様子が割と克明に描かれていて、これも非常に勉強になりました。いくらお金を持っていても配給切符がなければ、食べ物を買えない困難さ。これは、近々発生する金融恐慌でもあり得ることなので、今からどう対処するか、検討する上でためになりました。
  また、戦時中に多額の借金をした場合、終戦のどさくさに紛れてちゃらになるのかと思いきや、そうはならないということも知りました。これは、現在ローンを抱えている人には荷が重い話ですね。
  偉人伝やサクセスストーリーの類いと同じで、事細かにこの人たちの行動を追って、まねたところで成功できるかというと、そんなことはあり得ませんが、それでも学ぶべき点は多いですね。
  これはそれぞれの人の性格にもよると思いますが、一番大切なのは、常に前向きであるということ。これはどういう局面でも言えることでしょうね。それと目的意識がはっきりしていて、目標はシンプルであるべきだというのも、よく分かりました。
  おそらく同じものを見ても人それぞれ関心を向けるところは違うと思いますが、変化が激しい時代をどのように生き抜いたのか、示唆することは少なくないと思います。