数年前、植物工場について研究したことがあります。工場で農作物を栽培するなんて、手塚治虫のマンガのようにSFチックで、夢があると期待して、いろいろと調べたのですが、結論から言うと、密閉された工場でLEDなどのライトを当てて栽培する方法のものは現時点では、はっきり言って見込みがありません。もし、今でも「夢の植物工場」云々言う輩がいるならば、詐欺の可能性があります。
東京電力福島第1発電所事故の余波で、原子力発電所が相次いで閉鎖し、節電が叫ばれ、しかも電気料金の値上げが取りざたされている時に、電気を消費してまでわざわざ栽培することに経済性や意味はあまりないですね。
現在、植物工場で栽培されているのは、サニーレタスのような葉物野菜がほとんどで、所詮は電気の明かりの力でしかないので、トマトのような大きな実のなる野菜や、イチゴとか糖分の多い果物、さらに米、麦のような穀物なんかは、やろうと思えばできなくはないのでしょうが、大量の電力を必要とするため、コストに見合わず、実質的に不可能とみていいでしょうね。
工場で管理されているので、安全だというのが売りのようですが、人によっては、工場で作られた農作物にはなんとなく後ろ暗いイメージを持つでしょうし、さんさんと輝く太陽の下でのびのびと育った農作物の方が健全だし、電気の弱っちい力と比べ、あらためて太陽光というのは私たちに大きな恵みをもたらし、偉大であるということが分かります。
一部太陽光を取り入れて、ビニールハウスとのハイブリッドのような形態なら、将来性があると思います。ただ、その場合にしても、燃料費がかかるでしょうから、コストに見合う作物があるのか、工場で作るのにふさわしい作物があるのかについて、よくよく考える必要があります。かなり限定されるでしょうね。
知り合いの調査会社の人に聞いたら、屋内で栽培するのに最も適している作物は「大麻」なのだそうです。わずかな光で良く育つし、野菜なんか比べものにならない破格の価格で取引されています。もちろん冗談ですがね。要は植物工場というものはかなり割に合わないのです。
植物工場に限らず、夢の技術、未来を切り開く産業みたいにもてはやされる分野がどれだけ、将来性のあるものなのか、まゆつばなものは少なくないのではないのでしょうか。
医療やバイオ技術あたりも、期待されている割には、ものになるものはめったにないのではないでしょうか。21世紀に入って久しいのに、いまだに髪の毛1本まともに生やせないんですよ。幹細胞の応用なんて、一部では進んでいる部分もあるんでしょうけど、まだまだ道遠しという感じですよね。
みんな漠然と科学技術が切り開く明るい未来みたいなものを想像していますが、実は、人間の力なんて、そのうち限界に達するのではないか、そんな気がしています。
また、インターネットのような革新的なブレークスルーが起きたとしても、それは経済のパイを拡大する方向ではなくて、むしろ効率性が高まり、無駄の排除、今あるもののリストラへと向かってしまうのではないかという気もします。
電気製品なんか、どんどん小型化し、使い勝手もよくなりますが、部品、部材が少なくてすむので、経済への波及効果は小さくなる一方だし、なにより、製品価格も猛烈な勢いで下がっていくので、大手メーカーが巨額の投資をして生産ラインをつくっても、採算ベースに乗らなくなってしまっています。
実は、世界から夢がどんどんなくなりつつあるのかもしれないということも頭に入れておかなければなりません。そうなると、大切なのは、人生をどのように豊かなものにしてくか、ソフト的なものや、ちょっとした工夫、アイデアですよね。
地道に道を究めたり、努力をして何かを成し遂げることこそが一番価値があるのだということに多くの人が気が付く日が来るのは、そう遠くないのかもしれません。