何がしたいのか?

  気になった記事を一つ。ゆかしメディアより、「パナ本社の『田舎者』に世界でビジネスは無理」(http://media.yucasee.jp/posts/index/8959/1)は、シンプルな記事ですが、とても考えされられるし、危機感を感じざるを得ません。
  いつだったか忘れましたが、何度か折に触れて、このブログでも、パナソニックの三洋電機買収がいかに稚拙かということを指摘してきましたが、同じような見方を、パナソニック内部の人も持っているのだということを確認できました。
  企業のM&Aなんて、所詮は金融機関が編み出した錬金術にすぎないので、合併とか経営統合とか吸収合併をやって本当にうまくいっているケースなんて世界的にも珍しいと思います。日本経済新聞が好んで取り上げる、日本電産あたりはモーターという分野に特化してやっているので、そこそこうまくいっているようですが、感情的な問題を含めて完全に一体、同化するのは難しいでしょうね。
  みずほ銀行なんて、第一勧業、富士、日本興業の3銀行が集まってできたわけですが、それぞれ企業文化が違うし、プライドも高いし、そもそも、第一勧業銀行なんて、民間銀行の第一銀行と、国策銀行の勧業銀行がくっついた銀行で、勧業銀行出身者が第一銀行出身者を見下すという体質を持った銀行でした。それらが一体になるわけですから、働いている人たちは混乱するでしょうね。
  現にシステム統合で大きなトラブルが起き、信用が第一の銀行業としては、考えられないような失態を犯したわけです。あれだけ大きくなってしまうと、組織に対する愛着も薄れるでしょうから、自分の利益とか出世しか考えないような人も増殖することでしょう。合併により、ビジネスが活性化するどころか、官僚化、没個性化が進むだけの話です。
  財閥系の三菱や三井住友なんかは、歴史があるので多少はましなんでしょうけれども、欧米の金融資本に頭を押さえつけられて、住宅ローンを売りつけるか、国債を買ってせこい利ザヤを稼ぐ以外に画期的なビジネスモデルは見つからず、そんなビジネスをやっていて「何が楽しいんだろ?」と思ってしまいます。大手金融機関に翻弄されながら、コツコツ投資して稼ぐ、デイトレードの方が絶対面白いって(笑)!! 金融マンさんよ。
  パナソニックによる三洋電機の買収も、ゴールドマン・サックスが画策し、手下の三井住友銀行が動いて実現した訳ですけれども、ハゲタカの論理でなされたものなので、結局、誰も幸せになれないですね。
  パナソニックの駄目なところは自ら成長分野を開拓できない。これはモノマネの企業文化をつくった、創業者・松下幸之助氏の負の遺産です。三洋は、苦しい経営状況の中、エネループのような民生向けの二次電池や車向けのリチウム・イオン電池などの成長事業を種をまいて、せっせと育ててきたわけです。
  三洋には、変換効率の高い非常に優れた太陽電池事業もあり、パナソニックは「そんなものはゼニにならん」と、さっさと捨ててしまった分野なのですが、近年、世界的にエコロジーへの関心が高まり、にわかに活気ある分野となり、「こりゃいかん」と思ったのですが、気づいた時にはすでに遅し。遅れを取り戻すためのウルトラCとして、三洋を買収するという行動に走ったわけです。まあ、これもゴールドマンから「今買っとかないとやばいよ」とかそそのかされたんでしょうけれども。
  ただ、三洋を買収したのはいいが、ちっとも効果が表れない。そこで、あせった経営陣が、家電部門を中国のハイアールに売却したり、三洋ブランドを次々に廃止して、パナソニックに同化させようとしているのが現状です。
  これがパナソニック経営陣の馬鹿なところなんですよね。パナソニックなんて図体はでかいけど、所詮はローカル(田舎)・ブランドにすぎず、世界的なプレーヤーではないのです。韓国・サムスン電子やLG電子の台頭でそれがはっきりしたわけです。
  ゆかしメディアにもありますが、海外では、局所的には三洋の方が認知され、シェアが高い地域もあるのです。ベトナムの家電事業がそうですし、ウォルマートと提携することで販売網を確保した、米国のテレビ事業なんかそうですよね。国内では早々にテレビ事業はやめてしまいましたが、米国では“サンヨー”ブランドの方が認知されているのです。いくらビエラだなんだと偉そうにしていても売れなきゃ意味がないのです。
  同メディアによると、ベトナムの洗濯機、冷蔵庫事業は三洋のシェアが30%でトップ、パナソニックは十数%にとどまっているのですが、そのドル箱事業を中国に売り渡してしまった。しかも中国とベトナムは関係が悪く、中国企業はシェアを広げないでいたわけで、アホとしかいいようがないですね。
  パナソニックの経営方針は完全に金融資本主義に毒されていますよね。加えて悪しき官僚主義という。任天堂あたりもそうなのですが、それについてはまたいずれ分析します。世界的には大して認知もされていないのにパナソニックのブランドに固執し、中身のない、意味のないことを繰り返しているわけです。これじゃ勝てませんわ。
  携帯電話事業で海外展開を積極的に進めると言いながら、スマートフォンでサムスンが世界を席巻。テレビはもうあきらめた方がいいでしょうね。せめてプラズマなんてさっさと捨てて液晶一本に絞った方がいい。すでにサムスンは有機ELテレビを視野に事業展開しています。
  地道に新しい分野を開拓するとか、そういうのは不得意なので二番煎じになるとしても、何か一つアイデアを加えて魅力的な商品に仕立てるとか、それぞれのマーケットに合った商品づくりに徹してブランド認知度を高めるとか、やるべきことはあるはずですが、ことごとく韓国に先を越されてしまうんですよね。
  昔はソニー、今は韓国メーカーのマネをすればいいわけですが、それすらできなくなってしまっている。サムスンのスマホを上回る端末をつくればいいのですが、それができない。世界的な販売網もない。
  自分たちが何をやりたいのか、何を目指すのか、見失ってしまっています。これはパナソニックだけでなく、東芝、日立製作所、シャープ、NEC、富士通などにも共通することで、同じ病理は、これまで強かった自動車メーカーにも広がりつつあります。
  金融資本主義は近々、破たんする運命にあるので、もう一度、原点を見つめなおすことでしょうね。経営は悪いが、商品開発力など魅力ある三洋電機をどう生かすか、今ならまだ引き返せると思うのですが、欧米を見てもわかるとおり、ダメ人間はどんなに頑張ってもダメ人間なんでね。死んだ気になってやり直すしかないでしょう。