小沢一郎氏

  民主党代表選は、党所属国会議員による投票で、1回目の投票で2位につけた野田義彦財務相が決選投票で海江田万里経済産業相を破り、新代表に決まり、本日、新首相に選出されました。
  大体予想された結果であり、冷静に受け止められているのではないでしょうか。ただ、米国の言いなりで動く財務省の官僚から支持を受けている野田氏が選ばれたことで、日本がなかなか、米国から独立させてもらえないという、絶望的な状況があらためて確認されました。
  今回の代表選でも、相変らず「小沢対反小沢」の対立がクローズ・アップされました。野田氏は記者会見で「もうノーサイドにしましょう」と対立を乗り越えて、挙党体制をアピールしましたが、この対立をうまく利用し、利益を得たのはほかならぬ野田氏ではないでしょうか。
  小沢氏は熱狂的な支持者がいる一方で、アレルギーも強い。しかも擁立したタマが海江田氏という役者不足で、、しかもいささか唐突感があったので、くみしやすかったことでしょう。野田、前原両氏のグループからしたら米国からの力強い後ろ盾もあり「してやったり」というところでしょう。
  私は、小沢一郎氏の政策、政治理念については、かなりの部分で共感しています。小沢氏の理念の大きな柱は、対米従属からの自立と対等な2国間関係の構築、官僚による統治から政治主導への転換、権限委譲による地方の活性化、民主主義の精神にのっとった政治制度の確立(2大政党制)です。
  バブル崩壊後の「マネー敗戦」で浮き彫りになったのが、日本が軍事、金融面で米国に支配され、不当な圧力をかけられ、国の活力がそがれていることで、これは、東日本大震災、東京電力福島第1原発事故後の「日本再占領」で、あらためて確認されました。
  昨年9月の代表選で、小沢氏は自らの理念に基づき、日本のあるべき姿と、取るべき道をとても明確に示し、歴史的に評価されるであろう演説を行ったのに対し、菅直人氏は、まったく何も示さなかった。
  今回の代表選では、東日本大震災からの復興(復興増税)、原発事故の収束、円高、子ども手当見直しをめぐる3党合意の扱い、自民党員資格停止になっている小沢氏の処遇など、かなり具体的な争点が多かったですが、逆に日本がどう生きていくか、骨太の方針は争点としては大きく取り上げられず、日本の行く末を憂慮する者にとっては非常に物足りなく感じられました。
  こういう時だからこそ、日本の置かれている現状をしっかりと把握し、日本のあるべき姿を示すべきだと思うし、小沢氏ならそれができるはずなのですが、何もしなかった。海江田氏はしっかりした政治理念を持つ人物ではありませんね。だから、しっかり振り付けをする必要があったのに、準備不足は否めなかった。
  別に急転直下、政局が動いてこういう事態に陥ったわけではなく、5月に菅内閣に対する不信任案が出され、小沢グループはいったん、不信任案に同調する動きを見せた上で、菅首相の道筋をつけたわけで、先々のシナリオをしっかりと考えておくべきだったのは言うまでもありません。
  剛腕と言われる小沢氏に欠けているのは、「空気が読めない」ということです。政治家は空気を読むよりも、リーダーシップを発揮して空気をつくり出すべきなのですが、それもしなかった。どんな立派な考えを持っていても、それが国民に伝わらなければ意味はないわけです。
  これは、自民党を割って新生党、新進党をつくった頃からずっとそうだったし、小渕政権の自自公連立の時もそうです。世間の人には「壊し屋」にしか見えなかった。
  小沢対反小沢になると、国民全体としては、反小沢に傾いてしまうのが分からなかったのか? 来たるべき代表選に備えて常に準備しておくべきではなかったかと思います。配下の若手議員には常に選挙に備えて選挙区をくまなく回るよう叱咤しているのに、代表選については手が回らないのでしょうか? まあ、本人は地元の岩手4区にはあまり戻らないそうですが。
  空気が読めないことと並行して、パフォーマンスが下手ですよね。言い換えれば親しみが持てないということになるでしょうか。上っ面だけいい顔する政治家がほとんどなので、あまりこういう能力を磨くことに集中するのもどうかとは思うのですが、パフォーマンスを駆使して訴えるべきことは訴えなければならないときもあります。
  震災直後、被災地に入らなかったのもマイナスでしたね。小沢氏の選挙区の岩手4区は内陸部で、陸前高田や大船渡、釜石といった津波被害が大きかった地域ではないですが、民主党岩手県連の代表であり、民主党本部の重鎮であり、“東北の顔”でもあるわけですから、その姿を被災者、国民に示す必要があったと思いますが、動きは非常ににぶかったですね。
  若手議員に常日頃、「有権者の中に入っていけ」と言うのであれば、なぜ自ら率先してやらないのか? そこが親しみが持てないところであり、オヤジである田中角栄氏と決定的に違う点ですね。
  小沢氏に政治家として欠けている資質が、非常に目立った今回の代表選でした。人間は完全ではないので、それぞれの得意分野で勝負すればいいわけで、小沢氏にすべてを求めるのは酷だとも思います。そして周囲がそれをサポートすべきでしたが、そういう人物がいなかった。
  だからこそ、海江田氏などという得体のしれない人物を急きょ立てざるを得なかったわけですが、そういうところも含め、小沢氏の“不徳”が今回の結果になったわけであり、それも致し方ないかなと。
  ただ、それでも、最後まで戦わなければいけないわけで、頭を切り替えて新たな事態に対処する必要があります。