あや戻し

  金融市場で示される価格が、あまりにも実体経済からかい離しているときは、いくらテクニカルだ云々いっても、戻りには限界があるのだということを、この数カ月の間、身をもって学ばされました。今となっては、2月中旬からの堅調相場は、“あや戻し”だったとほぼ断定できるでしょう。
  金融市場が総じて堅調を維持しているときは、マインドが好転し、マーケットに関わっている人は浮足立ってしまいます。過熱が続けば、ますますその傾向は強まるし、実際に2月中旬から3月下旬にかけては、それまでの警戒心に満ちた状況など全く忘れ去ったかのような状況になりました。
  リーマン・ショックを乗り越え、新たな景気拡大局面か? みたいな論調が出てくるのではないかと予想して見ていましたが、それに近いものも出てきましたね。確かにテクニカル的には1ドル=90円、日経平均1万1500円くらいならば正当化されてもおかしくはありませんでした。(現時点でもそうです)
  マーケットコメントでも言われている通り、昨今の株高、リスク回避姿勢の大幅な後退は、各国の金融緩和でじゃぶじゃぶになった資金が市場に流れ込み、値を押し上げている側面が大きいです。この点に関しては、珍しく正しい認識を示しているといえます。
  ただ、問題は金融緩和が本当に実体経済を好転させることができるかですよね。2000年代に入った当初の日本の状況を考えても分かるとおり、金融緩和したって隅々にまで資金が回るわけではありません。メガバンクをはじめ、金融関係のボンクラ人間の間でカネのやりとりがちょっとだけ増えるにすぎないのです。
  しかも、その資金だって、日本の金融機関の連中なんて総じて頭が悪いから、結局は欧米に持っていかれるという情けなさ。結局はルールを熟知して(実質的にインサイダー)、巧妙にインチキを仕掛ける、ごく一部の“勝ち組”が独占してしまうのです。
  今回もそのまったくそのパターンを踏襲してしまいました。もうあと3カ月も堅調が続くかなぁとも思いましたが、平和ボケする暇もなく、景気が本格回復したと思い込んで、積極的に打って出ようかという人たちのはしごをあっさりと外してしまい、知らない間にピーク・アウトしてしまいました。
  つかのまの間、相場は勢いづくので、皆さん総じて、一瞬だけ儲かるんでしょうけど、事情を知っている人たちはさっさと売り抜けてしまい、気付いたら抜け殻になっていたという。2007年ごろ、サブプライム問題の影が忍び寄りつつあるにもかかわらず、「日経平均2万円も視野に」なんて言われ、功を焦った人たちは18000台、17000台で全力でのめり込んでしまい、地獄へと転落してしまいました。
  今回は、ピークがわずか2~3週間でしかも、大して達成感のないまま、ドル・円も日経先物もいつの間にか、上昇相場前の定位置に戻ってしまいました。
  大抵の人は、この数年間、一度は直接、間接に地獄を見ているでしょうから、耐性はついているのでしょうけど、今度の金融バブルが完全に弾ければ、もしかするとはい上がれるチャンスは二度とないかもしれません。情け容赦ない倒産、失業の嵐が吹き荒れることでしょう。
  まずは金価格。リーマン・ショック前後の2倍程度の価格水準で推移しています。単純に金をベースに考えた場合、通貨価値が半減しているということになります。政治的な思惑もかかわっている原油も同様。その他、資源、食料も高止まりで、金融緩和した分、諸通貨の価値は確実に下がっています。
  最も注目したいのは不動産価格ですね。土地が上がらないことには、欧米の金融問題はどうにもこうにも回らないはずですが、一部で新築住宅や集合住宅の取引が活発化してはいるものの、地下は低迷、あるいは底割れの危険さえあります。中国ですら沿岸部はブームは完全に終わり、今後、内陸部が過熱して弾けるという感じでしょうか。
  サブプライム問題は解決したのではなく、棚上げあるいは塩漬けにされた状態で、ここがどうにかならない限り、欧米の復権というのはありません。というか没落は必至です。
  もともと中国はガチガチの共産主義から展開し、ゼロからスタートしたので、現在の地価水準でも十分高いのですが、欧米なんて、価値がないものに価値をつけており、米国なんて過疎地を住宅開発して東京郊外のような地価にまで引き上げたわけですから、いわゆる「原野商法」に近いですよね。
  日本のバブル崩壊後の軌跡を考えても、米国の地価水準はまだまだ高すぎます。今から半値あるいは3分の1まで落ち込んでもおかしくはありません。そうなると、サブプライム問題は解決どころか、米国全体が破綻への道をたどることになるでしょう。
  あらためて確認しておきますが、現在の状況は、お金をじゃぶじゃぶ印刷して、見せ掛けだけ経済指数を好転させただけのことです。所詮は、一時しのぎにすぎません。いつまでたっても実体経済は良くならないでしょうから麻薬のように依存症になり、ハイパーインフレということも考えられます。
  だから、今はとりあえず追加金融による恩恵を最大限に生かして、乗れる時だけ乗って、ささやかに利益を稼いで、紙切れはさっさと金にでも交換して、プチ・バブル崩壊に備えるのが賢明でしょう。