ラーメン道 もう一つの原点 荻窪編1



  ラーメンを語る上で、やはり荻窪は避けて通れないと思います。ラーメン・ブームの火付け役となったのが、荻窪にある数々のラーメン店ですし、味も、東京ラーメンの原点というべき、ベーシックなものが多く、環七通りや新宿など激戦地でしのぎを削るラーメン店にも影響を与えているのではないでしょうか。私自身にとっても、ラーメンに関心を持つきっかけとなったのが荻窪で、かつて近くに住んでいたこともあり、思い入れは格別です。


  荻窪駅北口を出て、最近整備されたバス・ロータリーを左手に線路沿いに進むと、こじんまりとした商店街があり、その一角に丸福(黄色看板)があります。最近は、魚介系スープの店が東京ラーメンの主流ですが、丸福は豚骨、鶏ガラベースのスープで、こってりかと思いきや、店名通り、丸っこい、あっさりした味が売りです。
  かつて、丸福(黄色)から100メートルもない青梅街道沿いにも同じ店名の白色看板の丸福がありましたが、今から8年ほど前でしょうか、2003年ごろに閉店してしまいました。
  丸福は、荻窪の白色看板と、黄色看板のほかに、西荻窪にも黄色看板があります。ネット情報によると、白色が元祖で3店とも親戚同士のようなのですが、白色と黄色は仲が悪かったそうで、黄色は、荻窪が本店、西荻窪が支店、逆に西荻窪が本店で、荻窪が支店など、さまざまな説があります(私は前者の説)。
  ラーメン好きの間でも、丸福の味には賛否があります。荻窪・黄色看板ではまさに客の目の前でラーメンづくりが繰り広げられるのですが、しっかりと化学調味料を入れてくれます。
  このため、白色看板をひいきにするファンが多く、黄色を邪道とする向きがありますが、私はあまり、そういうことにはこだわらない派です。
  全体の味が調和していればそれはそれでいい。これは煮干し系にもいえることで、「1杯に煮干しを何十匹を使った」などと喧伝する店がありますが、たった1匹だろうが、100匹使おうが、煮干しの味をうまく引き出したラーメンが優れていると思います。


  上の画像は、丸福・白色看板閉店について、伝える当時の週刊誌(文春)の記事です。記事によると、荻窪・丸福は白も黄色も最盛期は、長い行列ができ、30分待ちとかもあったのですが、閉店間際にはかなり経営状態が悪化していたことがうかがえます。
  

  白色看板があった場所は現在、「La Petale」というカフェが入居しています。白色看板は人気はあったのですが、店の主人がぶっきらぼうで、奥さん(と思われる従業員も)子連れが来ると露骨にいやな顔をして追い返すということもあって、影の部分もありました。
  一方の黄色看板は、化学調味料が物議を醸すのですが、ご主人と奥さんの人柄が温厚で、老舗のいい雰囲気がにじみ出ています。私は今でも月一回くらいのペースで通うのですが、最近は常連客が多いですね。かといって、一見さんが入りにくい雰囲気でもなく、若い人もちらほらと見られます。


  いろいろと野暮な話を展開してしまいましたが、丸福でぜひ食べてほしいのは、玉子そば(780円)です。よくラーメンの味を表現するとき、「スープが麺によくからむ」というフレーズが使われますが、まさにその表現がぴったりです。細めの麺に、スープがよくマッチします。煮玉子は、おでんの玉子に近いのですが、ラーメンスープで煮こまれているので、独特の味がします。
  そして、私が最も強調したいのが、もやしがおいしいのです。もやしというと、ラーメンの脇役のイメージですが、このラーメンは何気なくのっているもやしの味が引き立ちます。もやし自体は、普通のもやしですが、出来上がりのまえに、さっと湯通しされたものが添えられており、「もやしってこんなにおいしいんだ」と思わせます。意識しないともやしを素通りしてしまうことがあるので、ぜひ味わってほしいです。
  丸福の中華そばは、非常にやさしく、店名の通り、丸くて幸福な味です。しいてたとえると、日清のチキンラーメンをラーメン店仕立てにした感じで、とってもベーシックな味です。


  東京でラーメン専門店が増えたのはこの10年くらいのことでしょうか。それまでは、町の小さな中華料理屋さんで出されるというイメージが強かったように思います。荻窪は、古くからラーメン専門でやる店が多かった。そうしたことから「ラーメンの街」が定着したのでしょう。


  青梅街道にはかつての白色丸福から3軒ほど離れた場所に、魚介系の大御所「春木屋」があり、ここは今でも名店中の名店と評価されています。私は新宿の麺屋武蔵の味を知ってしまった今は、春木屋はややかすんで見えるような気がしますが、東京ラーメンを知りたい人には、ぜひ行ってほしいと思います。


  北口の教会通り商店街を3~4分歩くと、「二葉」があります。ここも魚介系ですが、煮干しが立っており、春木屋とはまたちょっと違った味付けです。地の利が悪いのか、若者向けに昔とやや味が変わっていますが、ここも、原点に返れる店です。
  かつては、荻窪というと若者の街で、荻窪に住んでいるというと女性から「ルミネがあっていいよね」とうらやましがられたものですが、中央線沿線だと若者に人気なのは、ショップも多い高円寺あたりでしょうか。下北沢とか笹塚、中目黒、三軒茶屋、自由が丘、学芸大学なんかも人気エリアで、荻窪はやや枯れた感じがしますね。
  荻窪のラーメン店に行列ができる光景も、土、日、祝日でもあまり見かけなくなりましたが、原点の味だけは守ってほしいし、忘れたくないと思います。