ラーメン道 濃厚煮干しとイタリアンの意外な関係 浜松町編1
体調とか味覚って変わりやすいので、おいしいと思うもの食べたいと思うものがある時、それが旬です。おいしい物、食べたいものを食べて気を蓄えましょう。どんな食べ物も、本当においしいと思えるのは一瞬しかありません。であるならば、その時の感覚を存分に楽しみたいですよね。
個人的には、今つけ麺づいています。伝統的な東京ラーメンが好きなので、「つけ麺なんて・・・」と思っていたのですが、ちょこちょこ食べるようになって「意外といけるじゃん」と思い始めています。長い冬を越し、体力的にやや落ち込んでいるというのも大きいですね。ストレートに訴えかけるラーメンがもちろん一番好きなのですが、つけ麺の方が食べやすい感じがして、最近よくお世話になっています。
つけ麺はこの5、6年くらいの間に急速に注目を集め、提供するお店も増え、それなりの理想、志を持って始めた店主が多く、趣向をこらした味が楽しめます。ラーメンと比べると、はずれが少ないですよね。
まあ、このマイブームがいつまで続くのか。もう少し気温が上がり、気力、体力がみなぎってくれば、再び醤油ラーメンを中心にがんがん積極姿勢に転じるのではないかと予想しますが、ラーメンについて語る上でも、いろんなスタイル、味を知っておくと奥行きが増すと思うので、しばらくはつけ麺に軸足を置いてもいいかなと思っています。
つけ麺店の中で、気になっていたのが、芝・大門の「麺や ポツリ」です。雑誌に取り上げられているのを何度か目にして、ずっと興味を持っていました。「濃厚煮干し」がこのお店の目玉の一つで、煮干しラーメン好きにとっては、心浮き立つものがあります。
最近は煮干しスープを前面に押し出す店が増えていますが、ちょっと飽きてきたというか、案外ワンパターンなんですよね。
豚骨や鶏ガラ、カツオ節のように、万人受けする味ではないので、思い切ってがつんとやって固定ファンをつかむか、動物系とうまくコラボさせて特徴を出すかみたいな。私が一番、好きなのは西早稲田の「メルシー」の味ですが、あの味は煮干しラーメンをあちこちで食べましたが、ほかにないですね。
煮干し臭いんだけれども、いつ食べても飽きないような味に落とし込んでいて、煮干し系では「原点」の味だと思います。
「煮干し」をうたっていても、期待した味と違い、がっかりすることは少なくないのですが、それでも煮干しの味が好きなので、「煮干し」を銘打ったラーメンを見るとつい試したくなります。
ラーメンは、最近になって魚介系や煮干しが市民権を得て、売り物にする店が増えましたけど、つけ麺は当初から魚介系をアピールする店が多いですね。東池袋・大勝軒は、動物系がベースながらも、煮干し、さば節が存在感を出していて、むしろ「魚介系」といってもいいのではないかというほどです。超人気店「六厘舎」も魚粉が有名です。
ただ、つけ麺で煮干しを押し出すお店は少なく、つけ麺と煮干しがコラボすればどうなるのか? 興味が湧きます。太麺とつけ汁をどうからめるかがポイントでしょうね。煮干しはスープと一体的に食すラーメンだと、存在感が出ますが、麺にちょっとだけつける場合は、特徴が薄れてしまいます。そこをどうクリアするかがポイントですね。
今回のポツリは、JR浜松町、都営大門両駅から芝・増上寺へ向かう道の途中にあります。雑誌でも店名について触れられていて、「街の片隅にポツリとたたずむ・・・」みたいな紹介文が添えられていますが、新興店だけれども、すっかり街の風景の一部に溶け込んでいるという感じですね。
私にしては珍しく、午後1時前という、お昼時にお店に到着しました。私の前に2人ほどが店の前で順番を待っていました。
すぐそばには昭和電工の本社がありますし、中小の企業がたくさんあるので、場所柄、ビジネスマン風がほとんどで、中には営業ウーマンもいました。私のような冷やかし客は浮いていました。
ここへ来た目的はただ一つ。濃厚煮干しつけ麺(780円)を食べることです。麺の量は並盛、大盛、W盛のいずれかを無料で選べ、迷うことなく、W盛を選択しました。ちなみにW盛はつけ汁が足りなくなるかもしれないので、その時は注ぎ足してくれるそうです。
麺は、「小麦胚芽(芽の出る部分)麺」を使用しているとのことで、栄養が豊富だそうで、「おいしい麺で勝負するんだ」という心意気を感じますね。タピオカも練り込んでいるそうです。弾力ある食感にするため使うんでしょうけど、最近、麺にタピオカ粉を使う店がつけ麺店、油そば店には多いですね。清涼感もあって、私は好きです。
トッピングも有名で赤ワインと和風だしに付け込んだ玉子や、粉チーズもあるのですが、この日は、煮干しと対決したいと思って、あえて注文しませんでした。
さて、煮干しを前面に押し出したつけ麺。W盛だけあってボリューム感がハンパなく、むっちりした太麺は箸では持て余すくらいでした。
重量感のある太麺を持ち上げ、麺の端の方をつけ汁にちょこんとつけて、一口。うまかったですね。麺のほとんどの部分はつけ汁がついていないのに、つけ汁の味を感じられました。塩加減や濃いめの風味がうまく計算されているからでしょうね。
つけ汁はその名の通り濃厚で、全体的にドロッとしているのですが、煮干し特有の臭み、苦みは全くと言っていいほどなく、クリーミーな感じで、本当に煮干しかという感じでした。もう少し、えぐみがあっていいかなという気もしました。
ただ、西新宿の煮干しラーメンの有名店「凪」の特濃煮干しもそうですが、煮干しを濃くすると、クリーミー感が出るんですよね。しかも、つけ麺なんで、クリーミーで太めの麺とくれば、完全にパスタ感覚です。ここで粉チーズと赤ワイン風味の玉子をトッピングしておけばと後悔しました。
この間、何かの番組で、中国でさまざまな麺料理を食べつくすという企画があって、ごく素朴な田舎で、麺料理を出してもらったら、ゆでた麺に、ひき肉とか細かく刻んだ野菜のあんがかかっていて、レポーターが「これはイタリアのパスタです」みたいなコメントをしていましたが、ラーメンにせよスパゲティー、パスタにせよ、ルーツは中国なので、当然と言えば当然なんですよね。
以前も書きましたが、私は、汁なし担々麺や、油そばを食べるたびに、パスタを食べているような感覚を持ちますが、ポツリのつけ麺も同じような感じです。
次回はぜひ、玉子とチーズをトッピングして、イタリアン全開で楽しみたいですね。一応触れておくと、つけ汁の具は、シナチク、刻みネギとオーソドックスで、あと、控えめにチャーシューが入っているのですが、つけ麺のお店は大き目のチャーシューで押してくるところが多いのですが、やや持て余すこともあるので、つけ汁の入った小どんぶりの端にちょっとあるこのスタイルも悪くないです。
このお店は麺自体がおいしく、つけ汁も濃い味つけなのですが、最後まで飽きない味なので、麺とつけ汁だけで十分満足感が得られます。
「つけ麺なんてどこも似たような味だろう」と思っていたら、店によって全然違いますね。むしろラーメンよりも味の違いが出やすいのかもしれません。奥の深さを感じました。
麺とつけ汁のコンビネーションを追求しないといけないので、ラーメン以上に味の組み立てを計算しなければならないでしょうから、どの店も、いろいろと工夫が感じられます。
つけ麺店はどこも店主、店員に若い世代が多く、意欲的ですね。全体的なレベルがものすごく高いです。新しい味を提供しようと、研究熱心だし、フレンチやイタリアンなど全く異なるジャンルの料理人がつけ麺の世界に乗り出すケースなんかもあるようです。
いろんな意味で今が旬のつけ麺。いろいろと食べ歩いて、刺激を受けたいと思います。