国内の原子力発電所がすべて停止したことで、エアコンなど電力需要が集中する夏場のピーク時をどう乗り切るかが課題になっています。ただ、現在のところは、気候が良く、電力需要が少ない季節であるということが大きいのですが、原発がなくて、電力需給には全くといっていいほど問題はありません。
昨年の今頃を振り返ってください。東京電力管内では3月11日の東日本大震災、福島第1原発事故で、突然、電力供給が大きく落ち込み、一時、計画停電が行われ、4月中旬ぐらいには停電はなくなりましたが、公共施設では空調を弱めたり、照明を落としたりしました。電車の間引き運転が行われて日中、電車がなかなか来なくて不便だったり、駅のエスカレーターが止められ、地下の深いところを走っている都営大江戸線を頻繁に利用する私は、階段の上り下りに苦労しました。ダイエットには貢献してくれましたが。
現在は、かなりの節電が行われていますが、生活にまったく支障はなく、停止中の火力発電所をフル稼働したり、石油化学や製鉄など工場が持っている発電施設を動かしたり(埋蔵電力の発掘)することで、そこそこ対応できています。東電管内も3月に柏崎刈羽原発が全停止して以降、原発ゼロが続いていますが、この夏は、節電は必要という状況は変わっていないものの、深刻な電力不足には陥っておらず、むしろ他電力に融通する側に回っています。
高度成長時代は、製造業が日本経済をけん引していたので、手っ取り早く、安定して大きな電力が得られる原発は、経済を支えるためにやむを得ないものでした。2度の石油ショックで、エネルギーの確保や価格高騰が問題になったこともあり、まさに時代のニーズでした。
いつしか、原子力に対するアレルギーも薄らぎ、「原発がなければすべて成り立たない」みたいな風潮になったのですが、この一年の動きを見ていると、本当に目からうろこなのですが、「原発なくてもやっていけるじゃん」と見方が百八十度転換しました。
火力発電所をそれぞれの電力会社管内で、1~2か所増設し、省エネ家電の普及拡大、節電努力、発電効率がいい場所にある一戸建て住宅での太陽光発電の導入により、電力は、ほぼまかなえるでしょう。
問題は、火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)価格でしょう。日本は足元を見られて、バカ高い価格のLNGを買わされています。これは今後、外交努力を一層強め、価格交渉力を高めることが必要です。
米国がシェールガス開発でエネルギーの自給傾向を強め、世界的にはLNGがだぶつき気味であり、決して価格交渉は難しくはないでしょうし、より価格の安い石炭を使って発電すればいい。日本の石炭火力発電の技術は、効率性、低公害性などいずれをとっても世界最先端です。原発に費やされた公的資金を火力の推進に使えばそれもコスト低減につながるはずです。
脱原発は利権集団をだまらせれば(経団連、既存の電力会社)、意外と簡単でしょうけど、原子力は一定程度維持すべきだとも思っています。
エネルギーを自給できない以上は、あらゆる可能性を想定して、多様なエネルギー源を維持しておくべきでしょう。日本の電気事業は特定のエネルギーに頼らない「ベスト・ミックス」の考えに基づき、運営されてきましたが、原子力に過度に依存しなかったからこそ、原発が止まっても、深刻な電力不足に陥らなかったのです。火力発電だって、原発ほどではないにしても、何か落とし穴があって、突然供給停止にならないとは限りません。そこはリスク・ヘッジとして考えておく必要があります。
あとは、主に新興国では、これから原子力発電の開発が本格化します。ビジネスとして考えた場合、原子力の建設よりも、むしろオペレーションやメンテナンス、核廃棄物処理、あるいは燃料再処理などの方がうまみがあるし、ニーズは高いと思います。
今後、20~30年はこの傾向は続くでしょうから、技術、ノウハウを蓄積し、ビジネスを展開する上でも、一定程度、原子力を残しておく必要はあるでしょうね。
それと並行して、これまでは放射線や核廃棄物を生み出す核分裂による発電でしたが、核融合によりエネルギーを取り出す研究も本格化させ、脱原発というよりは、「ポスト原発」を見据えて、本気で取り組むべきでしょうね。これは経済成長だけでなく、安全保障も視野に入れた国家戦略として進めるべきでしょう。
日本では、ちょっと大きめの原発事故にすっかり縮み上がってしまい、原発問題は極めてナイーブな議論しか行われませんが、世界は、豊かさをめざし、多少危なかろうがなんだろうが、原発をどんどん建設し、成長を追い求める動きを強め、その勢いはちょっとやそっとのことでは止まりそうにありません。
それがまさに歴史のダイナミズムであり、世界の辺境にあり、今なお、豊かさボケ、平和ボケしている日本人にはなかなか理解できないでしょうね。人間はいったん手にした「便利な」者については、なかなか手放そうとしないし、手放せないものなのです。
日本の場合は、アメリカ様の言いなりでしか動けないので、この問題も、福島原発事故の処理と合わせて、命運は他人任せでしょう。情けないことですけどね。ただ、エネルギー問題について、ある程度達観しておかないと、将来を見誤ることにもならないので、きちんと整理しておく必要はあります。