自動車の未来~東京モーターショー2011③ 国内メーカー・日産自動車



  今回のモーターショーで一番、アトラクティブだったのは日産自動車でしょうね。トヨタ自動車がいい意味で横綱相撲、ちょっとうがった見方をすると、放っておいても客が入るみたいな殿様商売だったのに対し、魅せるプレゼンテーションで引き付けようとしたのが印象的でした。
  これは経営トップや社風の違いでしょうね。グローバル化が進んだとはいえ、純日本的な経営方針のトヨタ、外資が入り、トップも外国人が就き、経営方針も欧米流のスタイルが色濃い日産、日本的なやり方を残しつつ、独自のやり方でグローバル展開を目指すホンダ。それぞれ個性的ですね。


  カルロス・ゴーンCEOに対する評価は様々ですが、一時期、瀕死の状態だった日産が復活したのはまぎれもない事実です。
  もちろん、リーマン・ショック前のバブル時代だったからこそ、うまくいったという側面もあるし、日産が売れる車を次々に出して回復したというよりは、リストラの断行と、世界的に自動車市場が拡大する中で、それなりにその恩恵を受けたという部分は大きいでしょう。
  ただ、日本人だと思いきった、外科手術が可能だったかどうか? 荒療治をとらなければ、日産はつぶれていた可能性が高いし、それを回避し、V字回復を成し遂げたゴーン氏の手腕はやはりしかるべく評価すべきでしょう。






  日産が大々的にアピールするのは、やはり電気自動車ですね。ハイブリッド車の開発では、完全に出遅れましたが、元々は技術力に定評のある会社です。ハイブリッドはトヨタとの提携でやり過ごすとして、一足飛びに電気自動車で先んじようという戦略のようです。
  日産のプレゼンテーションはまさに“ショー”でしたね。自動車ショー会場で、公開放送をしていたTOKYO FMのDJが面食らったような様子で、日産の展示について話していました。




  プレゼンテーションには二重三重の人垣ができていて、ゆっくり見るということはできませんでしたが、無人自動走行で車庫入れしたり、電気自動車のシンプルな構造を生かし内輪差を少なくして、Uターンがしやすくなるなど操作性をアピールしたり、携帯電話との連携で自動的に車庫から車を出したりと、華やかなパフォーマンスの一方で、かなり具体的な提案をしていました。
  電気自動車のメリットというのは、燃費とか環境性能に目が行きがちですが、いろんな可能性があることがわかるいいプレゼンテーションだったと思います。
  ただ、電気自動車が主流になるということは、自動車の構造がシンプルになり、製造しやすくなるということでもあります。だから、家電業界同様、競争と価格下落圧力が強まり、電気自動車メインの時代になれば、果たして、今のような形で自動車メーカーが存続しているのか疑問な部分もあります。
  みんな薄型テレビは未来のテレビ、夢のテレビと思って、一生懸命開発競争をしたのですが、ブラウン管テレビと違って簡単につくれるため、過剰生産と値崩れで、NEC、富士通、三洋と相次いでテレビ事業からの撤退を余儀なくされました。日立も事実上、テレビ事業から手を引き、パナソニック、ソニーも縮小の方向です。
  電気自動車というのはいろんな意味で自動車の“家電化”ですよね。そういう危険な部分もあることをメーカー自身がどう認識しているのか?
  構造が複雑だからこそ、日本のモノづくりの真価が発揮できるわけです。ブラウン管テレビ、ラジカセ、ヘッドホンステレオ、オーディオ機器、VTRなどが主流の時代、日本の家電メーカーは輝いていました。
  その構図が分かっていれば、ハイブリッドでとどめておいた方がいいというのが、本音ではないでしょうかね。




  電気自動車の高容量のバッテリーを利用した、スマートハウスの提案もありました。最近は太陽光発電や家庭用燃料電池で、自家発電できるようになり、電気が余ったら売り、足りなくなったら受電することになり、送受電網への負担が増すため、効率的に発電と送電のバランスを取る「スマートグリッド」の研究が世界的に進んでいます。オバマ大統領のグリーン・ニューディールの肝の部分でもありますね。
  ただ、太陽光発電をはじめ、新しいタイプの発電量などたかだか知れており、ベース電源は火力や原子力に依存するという構造は変わるとは思えず、単に電気の供給体制を混乱させるだけなのではないかと、個人的には考えますが、いろいろと利権がからむので、そういう人たちの後押しを受けて、強引に推進されるのでしょう。
  東京電力福島第1原発の事故もあり、電力の供給体制については、こうしたスマートグリッドの進展と合わせて、今後、議論が活発化するのでしょう。
  まあ、家庭に電力を供給するために自動車のバッテリーを使うのはあくまでも災害時のような非常時であって、ありえないと思いますけどね。
  自動車に積むようなバッテリーが高性能化、低価格化すれば、家庭用のバッテリーも普及しやすい状態になるような気がします。
  夢物語だけでなく、商売人としての計算、将来予想も必要なのではないかなと思うのですが。