追い詰められる家電業界


  日々金融市場と対峙し、日本経済をウォッチする者としては、昨日流れたパナソニックのテレビ事業縮小のニュースはきちんと分析しておかないといけないでしょうね。
  このブログをよく読んでいただければお分かりの通り、折に触れて日本の家電メーカーについてコメントしてきました。パナソニックがプラズマから撤退して液晶に一本化すべきだという趣旨のことも述べています。見立てがほぼその通りになりつつあるのはうれしいですが、まさかこんなに早くそうなるとは思っていませんでしたし、予想以上に日本のメーカーが苦境に陥っていることが分かり、ショックでした。
  経済ジャーリストの財部誠一さんなんかが、かつて、中村邦夫社長(現会長)が、従来の松下電器産業の組織を大規模にリストラし、「中村革命」「中村改革」とかもてはやしましたが、プラズマ事業はその時の遺物であり、つい最近まではそこそこうまくいっていたわけですが、一気にお荷物事業に転落してしまった形です。
  日立製作所がすでにテレビの自社生産をやめるということを発表していますが、流れからすると、プラズマ、液晶ともに協力関係にあった(パナソニックのテレビ技術は日立に負うところが大きいです)、パナソニックが日立の事業を引き継いで、国内テレビ業界再編につながるのかなと思っていました。プラズマ事業に撤退、縮小の動きがあるとすれば、金融恐慌後にあわててアクションを起こすのではないかと予想していたので、このタイミングでの発表は意外感がありますし、英断だと思います。
  テレビは家電の花形ですが、世界トップの韓国・サムスン電子ですら、収益の上がらない事業になりつつあります。グローバルでの販売網が弱く、しかも、コストが割高な日本メーカーが太刀打ちできる状況ではありません。
  円高云々がいわれていますが、そうではありません。テレビは値崩れが止まらず、いまや平均1インチ=1000円の時代です。かつては、軽自動車が買えるくらいの値段だった、50型、60型テレビが20万円も払えばおつりがくるのです。
  パナソニックはリーマン・ショック前後に、尼崎にプラズマパネル工場、姫路に液晶パネル工場と、大阪湾岸で巨大な投資を行っていますが、投資を決めた当時、だいたい1インチ=4000~6000円くらいだったと思います。このままでは、投資の回収するすらおぼつかないですね。
  尼崎工場では、プラズマの生産ラインを一部、ソーラーパネルに回す計画もあったようですが、今朝の朝刊報道などを見る限り、それも白紙になったようです。中国メーカの台頭で、ソーラーパネルの価格下落も、テレビに負けず劣らず激しくなっているためです。
  テレビを収益の柱に位置付け、三洋電機を買収して、ソーラーパネル、自動車やパソコン向けリチウムイオン電池など繰り返し使える二次電池を成長のエンジンとするパナソニックの中長期の経営計画があったわけですが、根底から覆された形です。
  今のパナソニックで安定的に稼げる分野は、テレビなんかと比べると価格下落の影響が少ない、白物家電とか、住宅設備とかそんなところでしょうかね。ブランドの統一と先進的なイメージで社名を松下電器産業、松下電工からパナソニック、パナソニック電工に変更したわけですが、アップルのiPhoneとかiPad、サムスンのギャラクシーのようなスマートなイメージのある商品は何一つ打ち出せていません。はっきり言って見かけ倒し、看板倒れでしょう。
  国内に限っていうと「松下さん」「ナショナルさん」の方が親しみがあっていいと思います。ブランドが分裂すると維持費用がかかることも理由のようですが、今となってみれば単なるリストラにすぎず、日本的な経営で親しまれ、信用を得てきた企業にも、金融資本主義の毒が回ったという感じですね。
  日立や東芝、三菱電機といった関東のメーカーは、国策会社でもあるので、発電所とか鉄道などのインフラ、防衛、航空などの分野にかかわっているので、それなりに事業の柱はもっており、生き残っていくのでしょうが、家電オンリーの関西のメーカーは、生き残りの道筋が見えないですね。
  パナソニックと同じような事業構造を持つ、シャープも同様です。堺に大規模な液晶パネルとソーラーパネルの工場がありますが、シャープはプラズマがなく、液晶に特化し、パネルの外販でも稼いでいるとはいえ、価格下落でじり貧状態ですね。いずれ事業改革を余儀なくされるでしょう。
  ソニーもテレビ事業が苦しいという点では同じで、かつて世界を席巻したAV事業の不振は目を覆うばかりですが、巨額投資が必要な液晶パネルは外部調達しており、パナソニックと違い、世界的な知名度、販売網があり、やり方次第では逆転が可能です。
  パナソニックは良きにつけ、悪しきにつけ、今の日本を象徴しています。ブランドスローガンの“ideas for life”ですが、社名同様、すべっています。そもそも、「まねしたさん」と揶揄されるぐらい、ソニーやほかのメーカーのモノマネ、追随でやってきた会社で、その企業体質は何ら変わっていない。最近では妙なプライドがじゃましているのでしょうか? それとも体力が相当消耗してしまったのか、モノマネすらままならなくなっています。ソニーのウォークマンをまねしたように、サムスンのギャラクシーを追随できないようです。
  モノマネどころか、M&Aで他社の事業を取り込んでしまうというのはいかがでしょうね。これこそが金融資本主義の害悪でしかないと思うのですが。中村革命で捨ててしまったソーラーパネル事業を三洋買収で、リカバーして、悪びれもせずしれっと、三洋の「Hits太陽電池」をパナソニックブランドで、しかもご丁寧に“ideas for life”のスローガンを付けて、さも自分たちのものであるかのように宣伝して売っていますが、そんな会社に未来はあるのでしょうか?
  もっと、苦しんで、苦しんで、苦しみぬいた上で、何かを生み出さないと、本当の意味で革命とか、改革は成し遂げられないのではないでしょうかね。
  今は、いろいろとちやほやされるアップルだって、試行錯誤と苦難の時代が続いて今の成功があるのです。それだってサムスンとの競争でいつまで続くか分かりません。常に試練を受け、それを乗り越えてこそ、真の強さを身に付けるのだと思います。まだまだ甘いでしょうね。
  従来の延長上で家電をつくっていても、激しい競争と価格下落で商売にはなりません。アップルのようにこつこつブランドイメージを築き、芸術性やストーリー性を追求するのは一つのサクセスストーリーですよね。
  あるいは泥臭く成長路線を追求するならサムスンのように地雷をかいくぐり、伝染病もものとしない営業で、世界のどんな僻地でも、商品を売り込むガッツがないといけない。物がなく、貧しかったころの日本で、多くの人のために手が届く範囲で商品を提供し続けたのが、創業者松下幸之助氏の功績ではないでしょうか。
  新興国にいきなり、ベンツやBMWといった高級車を売り込もうとして拒否されたような状況なのが現在のパナソニックであり、大衆車、軽自動車からこつこつと信用とブランドを築いて今があるのがサムスンです。
  人々に身近なラジオ、電球、延長コードから始めたように、小さなことから始めることこそ、「幸之助精神」につながるのではないでしょうか。新興国の富裕層に高級品を売って、攻め込もうという発想は楽して金を稼ごうというのと同じで安易で、本来の社風を忘れて、金融資本主義の毒が回ったというような感じですよね。
  まあ、「過ちて改むるに憚る勿れ」のことわざはあるものの、今から始めたとしても遅きに失した感はありますが、目標を完全に見失ってしまった以上、何らかの現実的な経営方針を打ち出さざるを得ないでしょう。
  多品種少量生産で、ちょっとユニークな商品で存在感を打ち出すという、三洋の戦略は面白いと思いましたが、三洋を吸収してより大規模になってその発想ができるのかどうか。今の経営陣ははっきり言って、金融資本主義に毒されているようなので、あっと言わせるような変化ははっきり言って期待薄です。もっともっと苦しむのではないでしょうかね。「艱難辛苦汝を玉にす」といいますが、苦しみぬいて、何か生み出せるのか、脱皮できるのか、長い目で見たいですね。