界から注目されているシンガポールモデルとは一体どんなものなのか、見てみたいと思ったからです。
本当は中国内陸部で展開されているダイナミックな都市開発を見学したかったのですが、時期が時期なので、気軽に訪問でき、グルメやレジャーも楽しめ、これからの世界の発展モデルを見学でき、一石二鳥ということで、シンガポール行きを選択しました。
世界はスペイン、ポルトガルに始まる大航海時代から現在まで500年余り、「海洋の時代」が続いてきましたが、これからは、ユーラシア、南米、アフリカの各大陸の内部で本格的な経済発展が起き、「内陸の時代」へと移行しつつあります。
欧米が金融ばくちと不動産ころがしで持続不可能な水準にまで達した巨大な借金を積み重ね、ここからさらに金融緩和で新たなバブルを起こし、局面を打開しようとしていますが、衰退は覆い隠せません。これもパラダイムシフトを反映した世界史的な現象と考えていいでしょう。
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海には人は住めませんが、陸には開発可能な大地が広がり、大勢の人が暮らしています。まだ、所得水準が低いままであることを考えると、今後のポテンシャルは大きいといえるでしょう。昨年の中国の新幹線事故で、日本や欧米のメディアは「安全」を騒ぎ立てましたが、そんなことをものともせず、中国が日本やドイツから盗んだ技術を使って高速鉄道網をさらに広げているのも、そういう流れがあるからです。
これまで内戦や治安、水資源などさまざまな制約で発展が絶望的だと考えられてきた、ルワンダやコロンビアの首都は、ついこの間まで誰も予想もしていませんでしたが、近年目覚しい発展を遂げています。中国内陸部にはあちこちに摩天楼が出現しています。
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海洋の時代の象徴であるシンガポールが、これからの内陸の時代のお手本となるモデルとなっているというのは非常に興味深いことです。
外からの資本をうまく利用し、国民の教育水準や厳しいルールで道徳心の向上を図り、豊かさを実現した点が注目されているようです。特に中国は、所得格差が是正されず、国民のモラル向上に対して強い問題意識を持っている上、環境問題も深刻化しており、それらの問題をどうやって解決し、発展に結び付けたかという点に関心をもっているようです。
おそらく国民から人気のある“親民総理”温家宝首相や、優秀な官僚集団である共産主義青年団が来月の指導部交代の後も、中心になって、未来の国づくりにまい進することでしょう。バブルを発生させて資金を呼び込み、崩壊させて地価を下げて、そこで農村の余剰人口を吸収するというダイナミックな発想で進んでいます。
先日の産経新聞で、大阪都構想のモデルとしてシンガポールを取り上げていました。ただ、隣の芝は本当に青いのか? 考える必要があります。シンガポールの今年のGDP成長率予想は2.4%。農村部を持たない経済構造で、この成長率はかなり厳しいといわざるを得ません。
シンガポールは1980年代、90年代は日本や欧米企業の生産拠点として、2000年に入って金融センター、東南アジアと中国の橋渡し役として、発展してきたわけですが、この先の明確なビジョン、ビジネスモデルがあるわけではありません。
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引き続き、金融立国を目指すようですが、シカゴ取引所やユーロネクスト、東証と大証の合併にみられるように、規模、時価総額だけ大きくなっても、この先、ビジネスとしての発展はあまり見込めそうにありません。
何より、ニクソンショック以来、41年。法定通貨(リーガル・テンダー)としての不換紙幣(フィアットマネー)に基づく、経済システムは破綻に向かっています。リーマン・ショックはその序章にすぎません。
そんなことはすでに70年位前に経済学的に決着はついたはずなのですが、米国のマネタリスト、新自由主義者(本当は政府による金融統制を志向する人たち)が学説を捻じ曲げ、おかしな方向へと経済を導き、今そのとばっちりを全世界が受けているのです。紙切れを回すでは世の中豊かにならないのです。昨今の金価格、資源価格の高騰をみても、明らかにインフレであり、再び実物経済の時代に戻るべきだというサインでしょう。
金融業というのはもはや虚業であり、どの国の民間銀行も政府が債券を発行し、利子を支払ってくれるから商売が成り立っている状態で、ましてや投資銀行、証券会社なんて活躍の場がほとんどなくなっている状況です。世界的にはゴールドマンサックス、モルガンスタンレーがかろうじて生き延びましたが、日本でも野村証券以外のかつての四大証券は実質破綻したか、左前の状態です。
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シンガポールの政府系投資会社「テマセクホールディングス」は世界的にも有名ですが、リーマンショック以降、厳しい運用状況が続いているようですし、中国政府に請われて中国で工業団地を開発したところ、隣に中国がまねをして、さらに規模の大きな団地をつくり、進出企業を優遇したため、失敗に終わるという、痛い目にもあっているということです。
リー・クアンユー、シェンロン父子という傑出したリーダーをもってしても、金融という筋の悪いビジネスにしか活路が見出せないのもシンガポールの現状なのです。
街はきれいだし、移動しやすいし、安全です。ただ、つぶさに見ると、先進国に追いつけない“ラスト・ワン・マイル”が遠く感じられます。
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外資頼みであるので、シンガポール人のオリジナリティー、アイデンティティーを感じさせられる財、サービスがちょっと見出しづらいですね。あとは、インフラ面でそこそこのレベルにはあるのですが、洗練されていないですね。高速をうたう割にはインターネットのつながりが悪かったり、駅の切符販売機の反応が遅かったり、日本だとホテル、大型商業施設のトイレはウォッシュレットが標準装備になりつつありますが、最新のマリーナベイサンズでもトイレは決してきれいとはいえなかったり、エレベーター、エスカレーターが旧式だったり、などなど、ほかの途上国と比べるとはるかに進んでいるのですが、やはり先進国と比べると見劣りは否めません。
米国と中国の間にある地位を生かして、ここまでやってきたわけですが、米国の衰退が加速し、中国は外国企業を締め出して、シンガポールとは地理的に遠く、ビジネス的なつながりも薄い内陸部の発展を加速させようとしているので、この先、どうやって世界のビジネスに食い込んでいくかが、シンガポールの命運を握るでしょう。
あまり悲観的なことばかり指摘しても仕方がないですが、米国に頭を押さえられ、身動きがとれないでいる日本と比べると、未来を自分たちで切り開くという意思は強く、行動力もありますから、時代の変化に敏感に対応することでしょう。
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日本もシンガポールも海洋国家ですから、これからの陸の時代の流れに取り残されないよう、お互い助け合ったり、切磋琢磨する上で、重要な存在になるのではないでしょうか。
金融緩和でしばらく、急場をしのぐのでしょうが、近々、大きなクラッシュが起きるのは間違いないでしょう。いろんな矛盾が積もり積もっています。そうなれば、本当の意味で相場が動き出すことになるでしょうね。
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また、激しく経済環境が変化するでしょうから、いろんなものが淘汰され、いままで中途半端に生きてきた人たちは、容赦なく排除されることでしょう。よほどしっかりした考えを持っていないと生き残ることは困難な時代に突入することが予想されます。
そういう意味でも、新たなスタートの時が訪れようとしています。旧ブログで今年年初以来強調していますが、その時に備えても準備しておかなければならないでしょうね。