シャープが3月末に発表した、台湾の鴻海精密工業との資本、業務提携は、日本国内では驚きを持って受け止められましたが、以前から指摘しているとおり、電機業界の厳しい状況を考えると、「まあ、そうなるよな」という感じですし、むしろ遅きに失したと言っていいでしょう。
もっとも、私の事前の予想では、エルピーダ・メモリやルネサスエレクトロニクス方式で、経済産業省なんかも間に入って、国内の各メーカーの事業を寄せ合わせて、シャープ+東芝+三菱電機あたりでいくのかなと思っていたのですが、意外感がありました。エルピーダの失敗を考えると、国内だけの事業統合は無理がありますね。
海外がからむとしたら、韓国LG電子あたりとの提携や、米国のビジオなんかもあり得るかと思いましたが、据わりは悪いですよね。米アップルとの提携にさらに踏み込むのかとも考えましたが、シャープ同様、アップルとの関係深い鴻海を間にかませ、間接的にアップルと提携する形になりました。
鴻海のトップがいみじくも語ったように、「台湾と日本メーカーが組めばサムスン電子と十分渡り合える」というのは、大きな期待を抱かせるし、非常にいい組み合わせだと思います。日本の電機メーカーは新しい時代に入ったと言えます。
台湾メーカーは世界規模での販売力もあるし、技術力もそこそこなのですが、いかんせんブランドイメージが確立されていません。鴻海は「iPhone」を製造しているのに、一般には認知されておらず、逆に中国の工場で不当に安い賃金とひどい労働環境を放置し、現地の労働者を搾取しているという悪いイメージの方が先に立っています。
シャープは販売力はないし、知名度もそれほどではないものの、日本メーカーということで、信頼感を与えることができます。シャープの技術流出云々がいわれますが、今のままではどんなに優れた技術があろうと、売れずにそのまま腐ってしまうのです。これはパナソニックに完全に吸収される前の三洋電機も同様ですね。
放っておけば間違いなく、じり貧、あるいは価格下落と国内市場縮小で自滅していたわけで、鴻海のグローバル展開力に頼らざるを得ないところまで追い詰められていたのです。国内市場にあぐらをかき、グローバル展開を怠ってきた、経営判断ミスであり、海外勢の軍門に下るのは自ら招いたことで、仕方のないことでしょう。
それにテレビ事業の将来というのは、従来の延長上ではあり得ないでしょう。この年末にサムスン、LG電子の韓国勢は有機ELパネルを使用した大型テレビを本格的に売り出し、市場を席巻するでしょうが、おそらくテレビのイノベーションはこれが最後でしょうね。技術革新のための巨額な投資に見合った収益がテレビの単価下落で得られなくなっています。
となると、ブランド力を生かし、iPhoneやiPadのように、大した技術ではなくても、付加価値を高めて売り出せば、市場に拡大の割には大したビジネスではないものの、そこそこのビジネスは続けることはできます。アップルがネットTVに関心を示している理由もわかりますね。
そう考えると、販売力、技術力、そこそこのブランド力を兼ね備えたサムスンに対抗するには、シャープと鴻海は悪くないコンビネーションだし、さらにアップルが控えているので、現時点では「世界最強の連合」と言えるでしょう。
電機に限らず、自動車など日本の完成品メーカーは、単に品質のいいものを効率的につくるだけの時代は終わったと認識を改める必要があるでしょうね。人間の認知、認識能力にも限界があり、機能やスペックを追い求める時代も終わりつつあります。
もし、グローバルの舞台で戦い続けるのであれば、広く受け入れられるブランドを確立することと、世界同時にタイムリーに製品、サービスを供給できる販売体制を築くことが重要です。
これからは技術はそこそこでも、「デザインがいいから」「しゃれているから」「かっこいいから」「みんなが使っているから」「流行しているから」という理由で、買われる時代なのです。ちょっと気合を入れれば、iPhoneを上回るスマートフォンを売り出すことは可能でしょうが、「何となくすげぇ」「ちょっとほしい」というユーザーの錯覚を利用して、ちょっと高めの代金を払ってもらうことで、投資を回収するビジネスでないとやっていけません。
単に愚直に良いモノをつくるだけでは成り立たないのです。顧客のプライドをくすぐり、ファッション感覚を利用しないと稼げません。
今回の件について、新聞、雑誌報道なんかを見ていると、鴻海の経営者はその辺をよく理解していますね。反対にシャープの経営陣は経営を立て直すまでの「つなぎ」「一時しのぎ」としてしかみていないフシがあります。こういう意味で、日本はもっともっとグローバル化し、意識を変革する必要があります。