最近、ラーメン情報誌などでちょこちょこと取り上げられているのが、府中、調布方面の煮干しラーメン店です。この地区に煮干しラーメン店が集まっているのは、屋台やなんかで煮干しラーメンが売られていたのがそもそもの発祥で、その後、独立開業したラーメン店がお互い影響し合ったためと思われます。
私の中で府中は、八王子の手前の遠隔地という感覚があり、正直、足を向けにくかったのですが、新宿から京王線の準特急で20分強と、スムーズなアクセスでした。多摩地区へ向かう私鉄というと、かつての小田急線のようないつもノロノロ運転というイメージでしたが、新宿から府中まで停車駅は明大前、調布と2駅しかなく、しかもスピーディーで、意外と身近に行ける場所なんだなという印象を持ちました。
今回訪れた、「麺創研 かなで改」は、府中駅南口から徒歩1分もかからない、ちょっといい感じの飲食店が集まる小道沿いにあります。
日曜日の昼下がり、店の前にはカップルが2人順番待ちをしていました。店内はカウンターが7席とコンパクトで、他の新興ラーメン店同様、清潔感と開放感があふれ、有線放送のカントリー風の音楽がBGMで流れる中、若い店員の方が3人で切り盛りしていました。
煮干しの香ばしい香りが漂い、「早く食べたい」。待ち遠しい気持ちでいっぱいになります。
味玉とチャーシューが多めの「かなで煮干しラーメン」(980円)を注文しました。席数が少ないこともあってか、注文してすぐに麺をゆで始め、4~5分で出来上がりました。
パッと見た第一印象は、黄金色のスープがまぶしく、高級中華料理店で出てくるような、とても上品なラーメンという感じでした。
スープを一口すすると、懐かしい感じがしました。昔の荻窪・二葉の味に近いでしょうか。「煮干しラーメン」と銘打っているだけあって、独特の苦みとほんのりと酸味のある煮干しの味が立っていました。
東京で主流の魚介系スープのラーメン店は、だいたいは煮干しベースですが、煮干しの味を際立たせるかどうかでずいぶん変わってきます。そこが二葉や東池袋・大勝軒系のお店、麺屋武蔵などとの大きな違いです。その辺二葉などはあっさりとした仕立てになっています。
かなで改で特筆すべきなのは、チャーシューを国産豚と名古屋コーチンの2種類使用していることです。鶏肉のチャーシューというのはとても珍しく、新機軸ではないでしょうか。どちらのチャーシューも厳選された素材を使っただけあって、満足のいくものでした。
味玉は、黄身が半熟でした。荻窪・丸福のような、おでんの煮玉子のような感じを期待していたので、やや肩透かしでしたが、煮干しスープにはこちらの方が合うのかもしれません。
魚介系ラーメンの店では、薬味にゆずの皮や三つ葉をいれるところが多いですが、かなで改でも、取り入れれば、味にアクセントが加わっていいのではないかなと思いました。
スープを飲み干し、満足感を得て店を出たら、ちょうど、私より一歩先に入店したカップルも店の外にいて、体格の良い30代前半くらいの男性がひとこと「くそまずかった」とぼそり。
そうなんですよね。煮干しラーメンは好き嫌いが結構、分かれるので、嫌いな人にはあの味はちょっと受け入れにくいかもしれません。かなで改は、クセが少ない方だとは思いますが、やはり、独特な味付けになっているので、普通のラーメンを期待すると、思惑が外れることになります。
大阪の「玉五郎」というお店にも、煮干しラーメンがあるのですが、うまく味を調えています。ただ、本格的な煮干し好きからすると逆に物足りなくなってしまう面もあるのですが・・・。
かなで改の通りを挟んではす向かいに辛味噌ラーメン専門の「紅」という店があり、店の前には4、5人の列ができていました。かなで改の系列店のようです。
店の看板を見る限り、がっつり系の店のようですが、かなで改のラーメンへのこだわりを考えると、味は期待できそうで、辛い物好きでもあるので、多摩地区の煮干しラーメン店めぐりが一段落したら、ぜひ訪れたいと思っています。
府中駅に着く途中に高架を走る車窓から東京競馬場が望めました。駅前は再開発の新しいビルと古い商店が混在する、ちょっと興味をそそられる街並みです。
府中というと、東芝府中や、3億円事件しか知りませんでしたが、実際に足を運んでみると、いろんな顔が見えてきました。
一見、何の変哲もない首都圏の私鉄沿線の駅の一つですが、おいしいラーメン店が一軒あるだけで、街の魅力が随分変わってくるような気がします。ラーメンに限らず、頑張っている店が一つでもあれば、それが地域の活力につながるのだと思います。牛丼やハンバーガー、ファミレスのチェーン店ばかりではつまらないじゃないですか。
23区のラーメン店でいろいろ訪問したいところがあるのですが、府中にも目を引くラーメン店が何軒かあり、悩ましい日々がしばらく続くことになりそうです。