電機ショック

  日本のものづくりや先端産業の象徴だった、電機メーカーの2012年3月期の業績予想は、円高や韓国勢などとの競争激化などに伴う価格下落による市況悪化、さらには東日本大震災、タイ洪水の影響で、厳しい経営環境に見舞われ、軒並み大幅な下方修正を迫られました。
  このブログでは折に触れて、電機業界について分析してきましたし、いまさら言うまでもないですが、世界的に供給過剰が著しいテレビ、半導体の採算悪化が目立ちますね。これはリーマン・ショック前からその兆候がありましたし、継続してウォッチしていれば、下方修正はむしろ当たり前であり、驚くには値しないと思うのですが、世間の人には衝撃を与えたようです。
  日経平均先物ブログでも、電機業界について取り上げた記事が散見されましたが、どれも薄っぺらいですね。「テレビ事業の統合を進めよ」みたいなことを偉そうに書いているところもありましたが、どの社もリストラに次ぐリストラで乾いたぞうきん状態で、製造すれば製造するだけ赤字が出るのに、統合してどうしようというのか? マイナス1足すマイナス1はプラスになるのでしょうか? 勢いがある韓国メーカーだってテレビ、半導体事業はあまりもうからないんです。物を知らない、頭の悪い奴が分析しても、この程度だし、特段おもしろいことを書いているわけでもありません。
  各社の決算短信を基にまとめてみると、2012年3月期の純損益予想は、以下の通りとなります。
     日立製作所  +2000億円(-16.3%)
     パナソニック -7800億円(前期+740億円)
     ソニー    -2200億円(前期-2595億円)
     東芝      +650億円(-52.8%)
     富士通    +350億円(-36.5%)
     三菱電機  +1000億円(-19.7%)
     NEC    -1000億円(前期-125億円)
     シャープ  -2900億円(前期+194億円)
  新聞各社、NHKなんかはトップ級で、電機業界の業績予想の悪化を取り上げていましたが、すべてをいっしょくたにするのもどうかと思いますけどね。
  見出しとしては「日本の電機業界に試練」「韓国勢に抜かれる」みたいなことをバーンと持ってくれば、読者、視聴者の目を引くのでしょうけど、乱暴すぎですよね。やたらと放射能の危機をあおるのと同じパターンが透けて見えます。
  テレビ、半導体、そしてスマートフォンなんかだけを見ると、確かにそうなのですが、前にも指摘したように、これらの分野はもはや「水商売」なんですよね。安定した収益源としては期待できません。生産効率化や価格下落でコモディティー化している上、中国メーカーなんかも実力を付けてきていて、こんな土俵で戦っても仕方がないんですよね。
  発電所とか送電網、交通などインフラ部門を持つ、日立、東芝、三菱なんかは、むしろ善戦していると思います。コンシューマーだけでなく、企業向けのビジネスを展開する富士通なんかもそうですね。NECの駄目さ加減は独壇場ですが。
  とにかく、電機メーカーというと、AVやパソコン(半導体)、白物家電といった身近な分野を思い浮かべますが、いろんな事業を抱えています。事業分野によって利幅や好調不調が違うので、一概に論じるのは難しいのです。
  一般的にコンシューマーに近い部門は競争が激しく、テレビ事業にこだわりを持つパナソニック、ソニー、シャープがとりわけ業績が厳しいのは、こうした背景があります。パナソニックはプラズマ、液晶の二正面戦略が裏目に出た形で、これは完全に経営判断ミスですね。私はこの10年来あの会社をウォッチしていますが、現社長の頭の悪さは相当です。本来なら即座に引責辞任するべきですが、人材がいないのでしょうかね。
  環境分野に活路を見いだすと、社長さんはおっしゃいますが、彼らの言う「環境」とは節電、省エネとか太陽電池、燃料電池、リチウムイオン電池とかそんな分野であり、国内外を問わずいろんな企業、業種から参入してくるので有望な分野とは思えませんがね。
  ソニーはグローバルな販売網で、韓国サムスン電子にひけを取らないし、日本メーカーで韓国勢に対抗するならばやはりこの会社しかないのですが、分が悪いですね。テレビのパネルを自社生産していない分、パナソニックより赤字幅は小さいですが、それでも劣勢が続いています。ネットTVなど次世代型のテレビなんかではソフトを持つ強みがあり、ポテンシャルはあると思いますが、今後の奮起を期待したいです。
  シャープはテレビもそうですが、太陽電池事業も苦しいですね。どちらも価格下落が激しい分野です。かつては他社に先駆けるアイデアで勝負するというイメージがありましたが、最近は冴えないですね。液晶テレビに次ぐ、世界をリードする商品が見当たりません。サプライズを期待したいですね。
  日本の電機メーカーが抱えている問題は、日本の強みを打ち出せる商品やビジネスモデルを打ち出せず、韓国と同じ土俵で戦わざるを得ないことです。
  昨年秋に、ロボット見本市だか展示会だかが開催されましたが、建設現場とか、介護現場とかで、肉体労働を軽減する、パワースーツが目を引きました。力仕事は3K(きつい、汚い、臭いあるいは給料安い)職場ともいわれ、それなりにニースはあっても、就業したいと思う人が少ない分野です。
  パワースーツの導入で、かなり仕事の在り方が変わると思うのですがね。特に人手不足が厳しい、介護職場やなんかでは、肉体の負担が軽減され、介護に要する時間も短縮されるでしょうから、現場の人から感謝されると思います。
  家事労働を軽減するロボットや電気機器なんかももっと出てきてもいいと思います。本気になって探せば、いろいろと宝の山は眠っているはずです。もっともっと従来の思考方法や、しがらみにとらわれず、頭を切り換えてビジネスマインドを発揮してほしいと期待しています。