米大リーグ・テキサスレンジャーズへの移籍が決まった、ダルビッシュ侑投手の記者会見は、多くの人が心を打たれたと思います。さばさばとした表情で、ファンに誠心誠意応えようとするダルビッシュ投手の姿勢は、とても潔く、爽快感があったし、かっこよかったと思います。野球ファンとしてだけでなく、一人の人間としてリスペクトします。
日本野球が育てた至宝が、世界一の舞台で活躍することは、誇らしいことですが、多くの人が感じていると思いますが、一抹の寂しさがありますね。
それにしても、移籍が日本の野球に対して問い掛けたものは大きいですね。「大リーグに行かない」と断言していたダルビッシュですが、「日本にいてもモチベーションを保てなくなった」「メジャーに行きたいのではなく、行かなければならない」「メジャーで日本人選手が下に見られるのが嫌だった」などなど、ずしりと響きます。
一番大きいのはモチベーションの部分でしょうね。野村克也さんはなぜか「最近は打者のレベルが上がり、ピッチャーが抑えきれなくなっている」と指摘していますが、パリーグを見る限り、そうは思えないんですよね。西武の中村剛也選手あたりは別格ですが、猛打者、強打者が少なくなりました。
最近は日本人選手の年俸が高騰し、外国人の補強にあまりお金をかけなくなってしまったので、外国人でさえ、不動の4番あるいは、シーズンを通じてクリーンアップを打てるまさにメジャー級のバッターを見かけることが少なくなりました。もともと日本人は小粒なのに、さらに小粒になっていましたしね。
そんな状況ですから、芸術的なコントロール、軽快な投球で、多くのバッターを次から次へと手玉に取り、見ている方は気持ちがいいですが、何年も同じことを続け、しかもバッターのレベルが下がってくると、徐々にモチベーションも低下してしまうというのは分かる気がします。
キャッチャーの出すサインと、自分の思いが食い違い、ダルビッシュが「フォークだって」とか「ストレート、ストレート」と、打者の前で隠しもせずにキャッチャーに伝え、打ち取ってしまうシーンが有名ですが、球種を“予告”しても打てないんですからね。
試合前に、他球団の選手から、「フォークはやめてよ」とか「打ちやすい球を投げてよ」と言われることも多かったらしく、半ば冗談でしょうけど、そういう選手が複数いるということは、願望の部分も大きいでしょう。「真剣勝負」をしたいと考えるダルビッシュの不満が高まったのも無理はないでしょう。
ダルビッシュの記者会見はさわやかでしたが、こういう形で、日本球界を去っていくのは、非常にもったいないと思います。レベルの高い選手がいなくなるということは、単に集客できるスターがいなくなるだけでなく、日本プロ野球のレベルダウンも意味します。あの投手の球を打ちたい、あのバッターから三振を奪いたい、そういう意地と意地がぶつかり合って、名勝負は生まれるでしょう。日本に残留する選手たちにその心意気はあるでしょうか? テキサスで活躍して、力を見せつけたら、すぐに日本に戻ってきてほしいものです。
ダルビッシュの年俸は6年で総額6000万ドル、現在のレートで46億円で、松坂を抜き、日本人では最高とのことで、大騒ぎされていますが、1年で8億弱だから、それほど驚く額ではありません。日本のプロでも年3億もらう選手がいるわけですから、格差は2倍強ぐらいですかね。米国が国家破綻して1ドル=30円とかになったら、日本にいるときの報酬と変わらなくなってしまいます。
ヤクルトからブルワーズに行く青木宣親選手なんて、成功報酬型なので単純に述べることはできないのですが、ヤクルトで受け取っていた年3億円から大幅ダウンですよ。年8千万円とかいわれています。それでも世界の最高の舞台でアピールしたいという思いが強いということです。
青木の場合、最大で3年間で6億円受け取る可能性があるとのことですが、それでもヤクルトの2年分ですよ。この程度なら、報酬体系を改めれば、日本に引き留められるだろうし、やり方によっては、うまく補強することで、日本全体の底上げを図ることもできるでしょう。
こう考えると、カネの使い方がおかしいですよね。日本の野球界は。うまくカネを使って選手のレベルを上げようという発想もありません。最近は韓国や台湾の選手がかなり増えましたが、日本球界はそれなりに魅力のあるフィールドなのです。
だから魅力を高めるべく、みんなで努力すれば、かなり状況は改善するのではないでしょうか。ポテンシャルはあると思いますけどもね。
いずれ米国は国家破綻して、ドルが紙切れになる時代がくるのです。そうなると、メジャーリーグが一番とは言えない状況が来ると思います。
将来的には中国なんかも巻き込んで、日本がアジア野球の中心、世界の中心(せめてメジャーの対抗軸)になる、大胆な構想をぶち上げてもいいのではないでしょうか。
ダルビッシュが投げかけたものをプロ野球に関わる人はファンも含めて全員、重く受け止めるべきだと思いますね。もし、これからも野球を楽しみたいと思うならば。