勝負勘を磨く

  金融市場が訳の分からない動きを続けるので、正常な状態に戻った時のために(果たしてそうなるかは疑問もありますが・・・)、トレードの基本的なことをまとめておきたいと思います。勝負勘については、これまでも繰り返し触れていますし、天性の勘を持っている人には必要のないものですが、普通の投資家には磨かなければならないものだし、ある程度努力すればカバーできる部分もあるので、あらためてまとめておきます。
  野球に関心のある人は、日本シリーズで福岡ソフトバンクホークスと中日ドラゴンズのどちらが勝つか、予想は当たったでしょうか? 当たった人は自信を持っていいと思いますし、外した人は努力が必要です。
  今回の日本シリーズはいい教科書になりましたね。私は、ご案内の通り、シーズン中、首都圏各地の球場で野球観戦しますので、監督の力量や投手力、打線などを細かく観察し、どのチームが強いか分析し、勝ち負けを予想します。
  パリーグとセリーグを比べた場合、どう考えても、パリーグの方が総合力で勝っているし、交流戦でも露骨なまでに結果に表れましたね。その傾向はシーズン終盤でも変わりませんでした。むしろ、埼玉西武ライオンズのポテンシャルが開花し、緊張感が増したので、引き締まっていきました。そういう意味ではいいシーズンだったと思います。
  ただ、ソフトバンクの日本シリーズでの戦いぶりははっきり言って最悪でした。野村克也氏がテレビ東京や昨日のTBSの中継で解説を務めていましたが、秋山監督の采配(投手交代、選手起用)に関して、疑問を挟む場面がありました。
  私もソフトバンクが圧勝すると読んでいたのですが、ここまで中日に詰め寄られるとは思いませんでした。3勝同士で並び、中日が逆王手をかけた時は、正直、「えーっ!」という感じでやや動揺しましたが、最後は投手力、打線で一枚層が厚いソフトバンクが監督の力量の差をカバーし、かろうじて中日を出し抜きました。
  ライバルが東京ヤクルトとか巨人とか、レベルの低いセリーグに対して、メジャーリーガー級の投手がゴロゴロいて、打撃力もあり、どのチームが勝ちあがってもおかしくないパリーグで優勝したパリーグの地力の違いですね。最終戦で中日は先発が山井というのはちょっと苦しいですね。相手が杉内ですから。
  でも、中日は劣勢の中でよく戦ったと思います。対してソフトバンクは実力の割にお粗末な試合運びでした。野村氏が「(ソフトバンクは、いずれの試合でも)もっと点をとれたはず」と何度も苦言を呈していたのが印象的でした。
  日本シリーズは「キャッチャー対決」とも言われますが、細川亨のリードがさえていたので、ここでもソフトバンクは監督の采配ミスが救済されました。中日・谷繁も球界を代表する捕手ですが、ややキレがなかったような気がしました。
  今回の日本シリーズを総括すると、「地合が悪かった」ということになります。本来圧倒的な差で勝つべきチームが十分に実力を発揮できず、もたついてしまいました。これはトレードにも参考になります。
  NYダウにしても日経先物にしてもドル・円にしても本来は、「ショート相場」なんですよ。吹いたところ、上昇したところをたたき売りさえすればいい。
  でも、現実にはそううまくはいかないですよね。今年は何度も踏み上げで大損する人たちを目撃しました。今の金融市場の問題は実力通りにことが運ばないことにあります。
  ドイツくらいしか健全な経済状況を維持できていないユーロが不自然に高止まりしていること、ドルが為替介入により叩き売りを阻止されていることで、相場が歪んでいます。また、金融緩和で不自然なボリュームの資金が株式市場に流れ込み、異常な株高状況(8000円台の日経平均でさえそうです)、となっています。
  政策介入によって、市場の本来果たすべき価格形成機能が阻害され、極めていびつな地合になっているというのが現状です。普通に考えればこのような状況で株やドルを買う奴は馬鹿なのですが、政策介入で買い支えるのでお付き合いせざるを得ません。
  こういう局面では、勝負勘が狂わされるので要注意です。思い返すと、今年のセリーグのペナントレースもそうでしたね。節電とやらで午後9時半を過ぎると延長をしないという特別ルールを設けたので、東京ヤクルトが必要以上に強くなってしまいました。
  まあ、ヤクルトファンの私としては「もしかして10年ぶり優勝?」と、ちょっとだけ錯覚したわけですが、実際に球場で試合を見て、予想は修正しました。優勝するなら中日だろうなということもうすうす感じていました。
  好きな球団なのでばっさり切り捨てるというのはドライだし、忍びないのですが、勝負事にかかわるとはそういうものです。トレードを続けていく以上は宿命ですね。ビジネスでもそういう部分は大きいと思います。
  「ダメなものはダメ」と言う勇気も必要なのです。だから、そう考えていくと、人生つまらないものになってしまうのですが、もしトレード、勝負事、あるいはシビアなビジネスの世界に携わり続けたいなら、そこは割り切るしか仕方がありません。
  そして、「癒し」というのは、厳しい世界と人間的な感性との間のギャップを埋めるために存在するのだろうと思います。利益を還元するという考え方も大切ですね。
  勝負勘を磨くには、様々な情報を貪欲に入手し、何が強いのか弱いのか、盛り上がっているのか衰退しているのか、世の中から必要とされているのか、もはや用なしなのか識別する作業に尽きると思います。
  テクニカルだけでなく、ファンダメンタルを重視しなければならないと私が考える理由はそこにあります。そして、本来あるべき方向に物事は進むんですよね。だから、それを予想して、ロングなりショートをかけるのが投資というものです。
  そういう意味では、為替介入を予想して、ドルをロングするというのは、決して正しいやり方ではないですね。これは自分自身への戒めの意味でも指摘しておきます。
  年末にかけて、まだまだいろんな動きがあると思いますが、少なくとも世界経済は、現在の株価、為替の価格水準が示しているような状況ではないということは言えると思います。ただ、政策介入でおかしな動きをするので、面倒な状況になっています。
  最終的に総合力で上回るソフトバンク勝利で日本シリーズが幕を下ろしたように、欧州の破綻国は、堕ちるところまで堕ちるでしょうし、実力もないのに偉そうにいばりくさっている米国も同様です。
  予想外の動きが続くので、勝負勘が狂わされますが、大局観を見失わないことが大切です。